S級付与魔術師【エンチャンター】勇者パーティーを追放される。あれ? 俺がいなくなると武器も防具も全部ダメになるって言ったよね? 俺は新しいパーティーで必要とされてるから、君は自力でがんばってくれ

つくも/九十九弐式

S級付与魔術師追放される

「てめぇはクビだ! ルイド!」


 付与魔術師【エンチャンター】である俺は勇者ライアンから唐突に宣告される。クエストから帰った後、俺は宿屋の個室に呼び出されたのである。


「なぜだ? なぜ俺がクビなんだ。勇者ライアン」


 俺は付与魔術で武器や防具、それから装飾品などありとあらゆる装備に付与魔術【エンチャント】を施し、パーティーに貢献していたのだ。それにも関わらず、ライアンの突然の宣告には正直驚きを隠せなかった。


「へっ。貴様の付与魔術【エンチャント】は今まで役に立ったぜ! おかげで俺達はSランクの冒険者パーティーになり、地位も名声も手に入れた。俺達はもう完璧な状態になったんだ。だから付与魔術しか使えない無能は用済みなんだよ」


 勇者ライアンは俺を罵ってくる。付与魔術しか使えない無能、こいつは俺の事をそんな風に思っていたのか。俺達は幼馴染であった。長い付き合いの中、こいつが俺の事をそんな風に見下していた事に少なくない落胆を覚えた。


「いいか、ライアン。付与魔術は俺がいなくなると効果がなくなる。お前達の武器や防具、あらゆる装備がダメになってしまうんだ。この事をお前は知っているのか?」


 俺はライアンにこれから起こる事実を説明した。


「へっ。そうまでしてまで、この俺様のパーティーに残りたいのかよ? 付与魔術しかできない無能が。てめぇみたいな魔術師じゃなくて、俺達はもっと汎用性のある魔術師を雇うつもりなんだ」


 どうやら俺の言葉はライアンには届かないようだった。


「いいか? ルイド。これはもうパーティー全体の決定事項なんだよ。てめぇみたいな付与魔術しかできない無能は必要ない。あいつも、そう言ってるんだ」


 あいつ――アリアの事か……俺達の幼馴染である聖女アリア。果たして本当にそんな事を言っていたのか。このライアンが俺を追い出したくて嘘を言っているとしか思えないが。


 俺が知っている彼女はそんな事を言う人物ではなかったはずだ。少なくとも俺はそう思っている。だが、リーダーである勇者ライアンが言っているのだから仕方がない。


 同郷の幼馴染三人で組んでいたパーティーはどうやらここまでのようだった。


「一つだけいいか? 勇者ライアン」


「なんだ? しつこいな。まだ俺様のパーティーにしがみつこうとしているのかよ?」


「いや。そうじゃない。武器や装備に施した付与魔術【エンチャント】は他の付与魔術師ではできないものだ。大人しく装備を変えるか、他の付与魔術師を雇うんだな」


「へっ。無駄な忠告ご苦労だな。それじゃあな。とっとと荷物まとめて出てけよ。用済みになった無能のルイド君」


 こうして俺は勇者パーティーを追放される。


 ◇


勇者ライアンはルイドを追放した事でよりパーティーは上手くいくと考えていた。だが、彼の思惑は脆くも崩れ去っていく。


仲間の了解を得ずにルイドを追放したライアン。彼はこの日をきっかけに奈落の底にまで転落していくのである。


今まで得てきた地位や名声、そして仲間を失い、どん底にまで落ちていく。


この日、順調に来ていた勇者ライアンの転落劇が始まったのである。


そして、今までの功績が全てルイドがいたおかげだったのだと、彼は思い知るのであった。

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