【勇者SIDE】不穏な空気の中、次の目的地へ向かう

「……どこに行ってたのよ?」


 聖女アリアが聞いてきた。


「ルイドはどこに行ったの?」


「ああ……あいつなら用事があるそうでしばらくパーティーを抜けるそうだぜ」


 ライアンはアリアにそう説明をした。


「えっ!? 本当!? だ、大丈夫かしら。ルイド抜きで」


 アリアは心配している様子だった。


「大丈夫に決まってるだろ。心配するな! 何せパーティーにはこの俺様がいるんだからよっ! 大勇者であるライアン様がなっ!」


 ライアンは一切の心配をしてなかった。彼には過剰なまでの自信があったのだ。彼はパーティーが今まで上手くいっていたのは全て自分の手腕だったと信じて疑っていなかった。


ライアンはルイドを自分が栄光の道を歩む為の、道具か何かのようにしか思っていなかった。だから、どれほどルイドが貢献をしていても、ルイドを使っている自分の手柄であると思い込んでいたのだ。



 ライアンとアリア、それからルイドは幼馴染であった。なぜか、幼き頃からアリアはルイドに好意を抱いているようだった。


 だからライアンはその事が気に入らなかったのだ。ライアンはアリアに対して幼い頃から恋慕を募らせていた。


 アリアは美しく気立てのよい少女だ。その上に聖女としても類まれな才覚を持っていた。


 その彼女がどうやらルイドに好意を抱いているようだった。本人に聞いてみても否定をするだけだが、その態度がわかりやすく、本心はすぐに理解する事ができた。


 アリアの心が誰に向いているのかは明白だった。勇者であるライアンではなく、あの付与魔術師【エンチャンター】であるルイドの方を向いているのだ。


 その事がライアンにとっては酷く気に入らなかったのである。パーティーにルイドを誘ったライアンは利用できるだけ利用し、そして彼を捨てるつもりだったのだ。


 ライアンはルイドを追い出した事に対して嘘をついた。本当はルイドの離脱は一時的なものではない。今後一切パーティーに戻ってくる予定はない。


 ライアンはこう考えたのだ。自分自身の有能さを証明する事でアリアの気持ちが自分の方に向くこと。そしてあのルイドの必要性を感じなくなる。そして最後にはルイドの事を忘れるようになる。


 本気でそうなるとライアンは考えていた。都合の良い妄想を現実的なプランだと錯覚していたのだ。


「行こうぜ。ルイドの事は放っておいてよ」


「で、でも……」


「次の街ルヴィアで新しくパーティーに入る魔術師(キャスター)と合流する予定なんだ。なんでもすごい優秀な女の子らしくて、魔術の天才らしい。きっと俺達の力になってくれるはずだ」


 ライアンは新しく入ってくる魔術師に期待をしていた。もはやルイドなんか必要性がない。新しいパーティーメンバーを加え、自分達はより高みへと到達する。より完璧な状態へと近づく。

 そして誰もがルイドの必要性を感じなくなり、忘れ去っていくだろう。誰もがライアンの有能さに気づき、羨望の眼差しを向けるようになる。


 アリアの心はライアンのものとなるに違いがない。


 ライアンはそう考えていた。


 しかし、ライアンのこの都合の良い妄想が脆くも打ち砕かれていく。


 そう、ルイドを追放した日からライアンの運命の歯車は悪い方向にだけ向かっていく事になる。


 彼はまだその事を知らなかったのだ。

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