08.Act02:見参-その名はバトルナイト-③
正体不明の怪物による騒動から一夜明け、朝の酒場では
アルフが一人、いつもと変わらない様子で料理の仕込みに勤しんでいる。
出入り口の扉が開き、見慣れた顔がひょっこりと出てきた。
表には『準備中』と書かれた看板が掛けられていたが、そんなものは
関係者にとって意味のないものだ。
「おはよう我らが
昨日は大活躍だったな!!」
「おはようさん、怪我はもういいのか?」
身体の具合を聞かれ、ロンドはあっけらかんと答える。
「あのあと治療院に担ぎ込まれたからこの通りさ!
ただ、対価は大きかったよ・・・」
そう言って悄気た顔で空になった小袋を下へ振るロンド。
一昨日貰った報奨金が怪我の治療で吹っ飛んだようだ。
「そういう君はどうなんだ?
そっちもそっちで被害が大きかったろ」
「お察しの通りだよ」
そう言ってアルフはカウンター内の奥に立て掛けてある
新品の剣を見やった。
お互いの臨時収入は無情にもこうして消えていったのだ。
「それはそうと見てくれよこれ!これ!!」
ロンドは手に持っていた羊皮紙を広げ、仕事中のアルフへ見せてきた。
それはトラトス城下町で流通している瓦版で、その見出しには
大きくこう書かれていた。
【赤と黒の騎士、城下町に現る!? 謎の怪物を見事討ち取る!!】
「いやー、こうして見ると本当に身体を張って正解だったよ。
こういうのを
上機嫌でカウンター席に座り、瓦版を眺めながらニヤニヤするロンド。
そしてその視線をアルフの方へ向けて尋ねる。
「・・・今度こそ復活宣言と見ていいかな?」
仕込み作業の手を止め、アルフが口を開く。
「---あぁ、俺も覚悟を決め直したよ。
冒険者アルフとして・・・バトルナイトとしてな!」
握り拳を作り、意気込みを見せていく。しかし-----
「ただ、なぁ・・・」
意気込んだと思ったら、目の前の大男は肩を落としていく。
それを見ていたロンドはその原因を直ぐに察した。
「・・・ティアラちゃんのことか?」
「あぁ」
即答だった。
アルフが言うには、彼女の目の前で規格外の力を見せたことによって
自分を恐れるようになったのではないかという。
それを聞いてロンドは思わず彼に同情してしまった。
「まぁ、
彼らの知る
故に
そんな彼を支えるため、ロンドは日々フォローやケアに努めている。
「いやでも、そんな悲観しなくても大丈夫なんじゃあないか?
仮に怖がっていたら呼び止めたりなんか---」
「いーや、ありゃ絶対怖がってた!
あれ以上恐がられたくなかったから俺、思わず顔見せずに逃げちゃったし!」
「あれ別に格好つけてたワケじゃないんだ!?」
そんな裏事情、知りたくなかった。
二人がそんな他愛もないやりとりをしていると酒場の扉が開き、呼び鈴が鳴った。
「あーすいません、今日はまだ準備中・・・で・・・」
落ち込んでいる店主代理に代わってロンドが対応する。
しかし現れた人物を目の当たりにし、彼は言葉を詰まらせた。
「あ、あの!組合の求人票を見て応募しました!
どうか私をこのお店で働かせてください!」
「あー、うん。元気いいねきみ。採用。」
カウンター内で突っ伏しているアルフは顔も見ないで採用する。
そんな情けない姿をしている彼にロンドは
「おい!前見ろ前!」と言いながら頭を軽く叩いて対面を促した。
「あ~~?・・・・・・ってえぇ!?」
アルフは無気力ながら声のした方へ顔を向け、そして
目を見開いて思わず身体を勢いよく起き上がらせた。
二人の前に現れたのは、自分達が助けた後輩冒険者のティアラ本人だった。
彼女は組合で受け取った求人票を見せながら二人に微笑む。
「ありがとうございます!
お店のお仕事も冒険者のお仕事も頑張りますね!」
「良かったな、恐がられてなくて」
「お、おぅ・・・」
思わぬ形で今、一つの酒場に新たな仲間が加わった。
「改めて自己紹介を。
どうか、これからよろしくお願いしますね♪」
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「---報告を聞かせてもらおうかな」
周囲が暗闇で支配された空間で、一人の男が玉座に腰掛けて
頬杖をついている。
男の視線の先には紫髪の女が跪き、自身が見届けた結果を報告しようとしていた。
「はっ。『
蜘蛛の力を発現させ、周囲に猛威を振るいました。
しかし『
『
報告が終わり、玉座の男はニヤリと口角を上げた。
対する女は跪いたままの姿勢を保っている。
「よし、計画の進行は順調と判断しよう。
研究班には引き続き、残りの媒体開発に注力せよと伝えろ。
そしてメレアス、お前は新たな『
それを変質させ次第『
「はっ!」
メレアスと呼ばれたその女は男の命令に従い、立ち上がって男に向けて
一礼するとその場を後にした。
残った男は玉座に座ったまま、この先起こることに胸を馳せる。
「いよいよ始まったよ。ボクらの計画が・・・!
せいぜい実験に潰されずに強くなってね、バトルナイト・・・!」
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次回、
「紹介しよう。常連の3バカトリオだ」
「もうちょっとマシな紹介をしていただきたいのである!?」
「知りたいことなら特殊性癖以外、何でも聞いてくれ!」
「(見られたァァァァーーーーーッ!?)」
「あなたのその力、絶対見極めてみせるんだから!」
Act03:迂闊-正体バレは二度起きる-
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