07.Act02:見参-その名はバトルナイト-②



Act02:見参-その名はバトルナイト-




「バトル、ナイト・・・?」


 アルフだったもの、バトルナイトの背中を見つめながら呟くティアラ。

そうしてる間にロンドは再度苦しみだし、ティアラは

彼の方へ向き直って治癒の術をかけ直していく。


「あの時・・・僕らが君の前に現れたのは

 ただの通りすがりじゃなかったんだ」


 物陰に隠れながら治癒の術を受けつつ、ロンドは

ティアラに事情を説明していく。


「あの姿のままで送り出したら、きっと君に誰かが

 その様子を見てこう思われてしまう。

』を知っているんじゃないかってね」


ロンドは更に続けて、自分達が危惧していたことを教える。


 ティアラがあのまま赤と黒の騎士と行動を共にしていたら、きっと

誰かがその様子を目撃し、彼女が関係者として

人々に認識されるのではないかと。

そして変に注目されて身動きが取りづらくなっているなかで

ヤツらの仲間にこの話を聞かれ、何かしらの報復を受けるのではないか。

それらを防ぐために二人は冒険者の一人として接触し、

彼女の保護に務めたのだった。


 二人がそうやりとりをしている間、バトルナイトに変身したアルフと

スパイダー・ラースが対峙を続けていた。

怪人側からすれば、自分のしのぎの邪魔をした存在が再び

目の前に姿を現れたのだ。

昨日の記憶が蘇り、怒りの感情が噴き上がってきた。


「テメェか・・・!テメェだったのか!!

 昨日はよくもの邪魔をォ!!」


「生憎お前みたいな奴と会った覚えはないな。それより

 俺からの質問に1つ答えろ。姿?」


相手からの因縁を受け流し、バトルナイトは

何か思い当たることがあるのか仕掛ける前に質問をする。

しかしそうした態度が癪に障ったのか、スパイダー・ラースは

更に逆上した。


「馬鹿かよテメェはァーーーッ!!誰がゲロってやるか!!

 その甲冑全部引き剥がして屑鉄にしてやンよォーーー!!」


 スパイダー・ラースは飛び掛かって一気に距離を詰め、勢いよく

右ブローを繰り出してきた。

だがそれは左腕で難なく受け止められ、逆に相手からの

右フックを喰らってしまう。

思わぬ反撃を喰らうも、怪物は構わずに攻撃を繰り出していく。

しかしどの攻撃も最小限の動きでいなされ、自身のボディに

カウンターを打ち込まれてしまう。


一方的に攻められ、スパイダー・ラースは流れを変えるべく

後退してバトルナイトと距離を取った。

そして動きを封じるために糸束を飛ばし、相手の右腕に絡ませてきた。

攻勢に転じられたとスパイダー・ラースは不敵な笑みを浮かべ、

相手を投げ飛ばそうと握っている糸束に力を込めてくる。

だがバトルナイトは糸が絡まっていないもう片方の腕で

糸束を引っ張り上げ、その勢いでスパイダー・ラースの体勢を崩してきた。

その直後に前方へステップをして距離を詰め、両腕で相手の身体を掴んで

固定するとそのまま腹部へ膝蹴りを三発喰らわせる。

相手が悶え苦しんでいる隙に腕に絡まった糸束を引きちぎり、バトルナイトは

右手にスナップをかけて直ぐに右ストレートを叩き込んだ。


 あまりの威力にスパイダー・ラースは後方へ吹き飛ばされ、そのまま

背中から地面に倒れ込んでしまった。


「な、何なんだよお前ェ!何でオレの邪魔ばかりィ!?」


余りにも一方的な展開にスパイダー・ラースは思わず声を上げながら

身体を起こしていくが、相手への恐れによって後ろずさる様な動きとなっている。


「俺か?俺は困っている人を放っておけない・・・ただのお節介焼きだ!」


そう言って右足に力を込め、バチリと雷光状の魔力を纏わせて

バトルナイトは四歩駆けてから掛け声と共に跳躍。

宙回転したあとに右足を前に出す形で蹴りの姿勢をとった。

その先には怪物をしっかりと捉え、勢いを殺さないまま迫っていく。


「うおりゃああああああァ!!」


「う、うわあああああああああああ!?」


危険を察知したスパイダー・ラースは慌てて立ち上がるも時既に遅し。

バトルナイト渾身の蹴り、マイティスマッシュは胸部へと直撃した。


「ガハァッ!?」


反動によってスパイダー・ラースは再度倒れ、バトルナイトは

後方へ一回宙返りをしてから着地してゆっくりと立ち上がる。

勝負が決した瞬間である。


 スパイダー・ラースは全身から火花を吹きながら立ち上がるも

すぐに蹌踉めいてしまう。そして-----


「こ、こんなハズじゃ・・・!オレは、オレはこの力で・・・ッ!

 ガアアアアアアアアアアアアアアァ!?」


大きな悲鳴と共にスパイダー・ラースは轟音をあげながら爆発した。



「ッ!?」


「終わったか・・・」


 勝負の一部始終を見終え、ティアラは渾身の一撃の威力に絶句し、

ロンドは英雄の勝利に喜ぶ素振りをせず、ただ憂いに満ちた表情を向けた。

だが、その顔も驚きへと変わる。


爆炎が晴れ、そこには見覚えのある男が呻き声を上げながら

その場に倒れ込んだ。

その男は昨晩、ティアラを襲った追い剥ぎ集団の元頭だった。


「嘘だろ!?あいつ生きて・・・!」


「---こいつはッ!?」


ロンドだけでなく、バトルナイトも打倒した相手が生きていただけでなく

その正体にも驚愕した。


「こいつは昨日の・・・だから俺の姿を見て」


そう納得していると、倒れている男の額に

黒い宝石が埋め込まれているのに気付く。

それは額から転がり落ちると、音を立てながらひび割れた。

同時に『何か』黒い靄のようなものが発生したが直ぐに消えてしまった。


バトルナイトは男の元へ寄り、黒い宝石を拾い上げて観察する。

そうしてる間もなく遠くから声が聞こえてきた。


「あっちで何かでかい音がしたぞーー!急げェーーー!!」


衛兵や加勢した冒険者達だろうか。

声を聞いて直ぐ、バトルナイトはその場から飛び去ろうとする。


「待ってください!アルフさん、あなたは一体・・・!」


ティアラによる呼びかけに、思わず足を止めてしまう。

しかしバトルナイトは振り返らないままこう応えた。


「ティアラちゃん、これでさよならだ」


そう言い残し、バトルナイトは飛び去って町の奥へ消えていった。

彼と入れ替わるようにして衛兵達が現場に到着する。


そのうちの数人がロンドとティアラに気付いて駆け寄ってきた。


「おいあんた達、大丈夫か!?

 ここに怪物が来ていたはずなんだが知らないか?」


「あぁ、怪物だったらさっき---いだだだだだ!?」


ロンドが事情を説明しようとすると、突然彼の全身を激痛が襲ってきた。

見習い治癒士の術では痛み止めが関の山だったようだ。


「あんた怪我してるのか?

 おーい誰かこの人を治療院へ連れてやってくれ!」


仲間の一人を呼び、対応した衛兵がロンドを搬送させようとする。


「ああ!ちょっと待って!?

 ティアラちゃん、ちょっとこっちに・・・!」


脂汗を流しながらティアラを呼び寄せるロンド。


「悪いけど、僕の代わりに事情説明よろ・・・しく・・・!」


そう言い残し、ロンドは限界を迎えて気を失う。


「へ・・・えぇーーー!?」


衛兵への説明を丸投げされ、ティアラは思わず大声で驚いてしまった。


 詰め所へ場所を移したあと、ティアラは自分の知りうる限りの事情を

衛兵達に説明した。

留置場の近くで怪物に連れ去られ、あそこに着いたあと

一緒にいた男性が駆けつけてくれたが、返り討ちに遭ってしまったこと。

彼が殺される寸前で赤と黒の騎士がやってきて自分達を助け、そのまま

怪物を倒し、そのまま遠くへ立ち去ったこと。

そしてその怪物の正体が、留置場から姿を消していた

追い剥ぎ集団の元頭本人だったこと。

あの男はあの場で拘束された後、町の外にある収容施設へ収監されたそうだ。


赤と黒の騎士が飛び去った方角は別の方向にして伝え、その正体も

最後まで伏せていた。


 事情説明も終わり、ティアラはようやく帰ることを許された。

詰め所を出ると外はすっかり赤く染まっていた。

夕焼けを見つめながら自分の腹部をさすり、

「お昼ご飯、食べそびれちゃったな・・・」と思いながら

ティアラは今日、自分の身に起きたことを振り返る。


親切な二人の男性との出会い、怪物の襲来に

赤と黒の騎士改めバトルナイトとの再会。

昨日から立て続きに起こった出来事に対して

実はずっと夢を見ているのでは思い、自分の頬をつねるも

その痛みは夢物語であることを否定した。


そして空を仰ぎながら一考し、何かを決したかの様な表情をして

『ある場所』に向けて足を運んだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る