Fragments

 あの世界を抜け出してから、1カ月くらい経っただろう。箱から出た私は、しばらく彼とこの真っ白な世界で過ごしていた。始めの2週間くらいは。

 同じ時間を共有することで愛を深めていった私たちは、次第に恋人と呼ばれるような関係となった。

 それは、嬉しくもあり、悲しくもあった。

 私なんかで、いいのかと。

 前に彼に聞いてみた。

 「私のどこがいいの?」

 と。

 そしたら彼は、

 「その美しい鈴が鳴るような声、澄んだ青色をした瞳。それと、どこか寂しそうな雰囲気が好き。」

 と言った。やっぱり変わってる。でも、嬉しかった。


 ある時、私が寝ている時、何か重いものが体に乗っかった気がした。うっすらと目を開けると、それは彼だった。

 しばらく様子を見ていると、彼は顔を近づけて来た。

 「っ!!」 

 口に、何か暖かくて湿った、柔らかいものが触れた。

 私は彼にキスをされたのだ。

 その瞬間、私の体温が上がったのと同時に、真っ白な世界が色づき始めた。

 ピンク色を主体とした、柔らかい印象の世界に。

 それが、2週間経った頃の出来事だった。

 ちなみに、あの時なんでキスを仕方聞いたら、してみたくなった。と言われた。そんなに簡単にしていいものだろうか。

 まあ、欲を満たすために性行為をする人だっているのだから、普通なのだろう。

 その日を境に、彼の行動は大胆になっていった。

 寝ていなくても、キスをして来たり、手を握ってきたり、たまに、ハグをして来たり。

 なんでそんなに積極的なの?って聞いたら、何も教えてくれなかった。ただ笑って、はぐらかすだけ。

 決まって最後に、

 「いつか、全てが夢だったと思えるようになる」

 とだけ言って。

 

 ある日、私は夢を見た。人間の姿で、彼と出かける夢。夏祭りだったり、遊園地だったり、映画館だったり。

 色んなところに出かけていた。とても、幸せな夢だった。

 でも、すぐに2度と手に入らないことを知った。

 起きたら、泣いていた。


 彼は突然こんなことを言い出した。

 「今から渡すものを食べて」

 と。

 「何を食べればいいの?」

 と聞いたら、 

 「慌てないの。」

 と、返された。やっぱり彼ははぐらかすのがうまい。もちろん、焦らすのも。

 「向こうを見てて。そして、絶対にこっちを見ないで」

 と言われた。

 大人しくそれに従い、少し心配しながら待った。

 「いいよ。こっち向いて。」

 そう言われ、振り向くと、そこには何か光るものを両手で持った彼がいた。 

 「それは何?」

 私は咄嗟に聞いていた。

 「実はね、僕は不死鳥なの。要は不死身。僕には、始まりがあっても、終わりがない。今までは嬉しかった。死という恐怖に怯えなくていいからね。でもね、君に会って、恋して変わった。終わりがあるから、いいんだって。終わりが来るから、今という時間を大切にできる。だからね、この不死鳥の力を君に食べてもらいたい。そしたら、全てが夢だったと思えるようになる。」

 また、その言葉だ。でも、やっと真実がわかる。

 「全てが夢のようだったと思える」

 その、幻のような言葉を。

 

 私は、彼の手からそれを受け取り、食べた。味はしなかった。ただ、体の中に入ると、なんとも言えない充足感に満ち溢れた。

 彼のいう、夢のようだっと思えること。

 その答えは、単純だった。

 気がつくと私は、人間の姿に戻ってた。しかも、自分の部屋にいた。

 なんでここにいるか、思い出せない。

 唯一思い出せるのは、自分と同い年くらいの少年の顔と、

 「手に入らないものなんて、この世にはない」

 という言葉だけだった。

 彼が誰なのかはわからない。でも、なんとなくまた会える気がした。それは、私の中の何かが、別の何かと呼応していたからだ。それはきっと、彼と繋がっているのだろう。

 明日にでも、会いに行こう。今日はもう遅い時間だ。

 そうして私は、眠りについた。


 



 久しぶりに、深く眠れた。

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箱の中の怪物 あおぞら @bluesky0308

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