第49話 FINALPHASE CROSS SPIRIT OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE 21-④

「ぬおおぉぉーっ! 獣配猛掌撃ビーステッドラム!!」

 この技はさきほど完璧に防がれている。ルック自身通用すると思ってはいない。それでも少しでも態勢を崩せれば……と思い繰り出す。

 強烈な掌圧が渦巻き唸りを上げて、床と水平に突き進む。

 軽々と左の掌底だけで受けるトレガー。

 かすかに左手が痺れたのか眉根に浅く皺が寄る。

「うおおぉぉっ! 嵐回旋裂刀ワーリキングインヴォルヴ!!」

 天井すれすれに巨大独楽が回る。

「こざかしい」

 風を巻いて迫る巨大独楽を右拳からの拳圧ひとつで撃墜するトレガー。

 彼の右頬に一条の傷が走り、血が零れる。

「っ!」

 無表情ながらドミネーターの片眉がピクッと動く。

 彼の足元まで星を散りばめた宇宙が広がる。

 トレガーが反射的に広がってきた宇宙の始点を見やる。

 そこではプリトマートが右拳を天に掲げている。

「はああぁぁーっ! 覇邪天流拳ロイヤルカァーリィジューシード!!」

 姫救星拳騎士の右拳が聖なる光を纏った流星と化す。

 動揺による一瞬の遅滞で反応が遅れる。

 ドミネーターの身体を数十条の流星が覆う。

「くっ!」

 流星群を突き破って十数か所から漆黒のオーラが噴き出す。

「ぬぅん!」

 右腕を大きく横に振り流星群を薙ぎ払うトレガー。

 だが、わずかによろめき片膝を着きかける。

「やああぁぁーっ!」

 宙を舞うゾーイの背後に槌を構えた超越存在が浮かぶ。

「あぁぁっ! 遊暴託神槌フリーガンズオラクル!!」

 振り下ろされる槌と重なって限界まで五体をたわめた少女が跳び込む。

 右掌で受け止めるトレガー。

 超越存在の力を纏った蹴撃の威力は凄まじく、手の甲が鼻に触れるほど右手を押し込まれる。

「小娘が!」

 トレガーが漆黒のオーラを放ちつつ、右手を振りゾーイを弾き飛ばす。

「ぐっ!?」

 オラテイオを高めたことで激痛を発したのか、トレガーが右腕で胸を抑える。片膝が床に接する

「アニキ!」「ジュウザ!」

「アン!」「王子!」

 仲間達の声を背に二人の少年が駆ける。オーラが尾を引いた姿は二個の彗星の如し。彼らのオラテイオは臨界まで昂まり充実している!

 強靭な精神力で疲労と激痛を抑え、四災槍の司令が顔を上げ二人に向き合う。

礫圧黒弾拳隕アーテルシュヴァルツメテオ!!」

 トレガーの左拳から無数の隕石弾が撃ち出される。

「っ! 熾星法平拳!!」

 疾走するアンの周囲を剣を構えた天使達が取り巻く。

 剣の先端から疾った光条が隕石弾を打ち砕く!

「っ!? ぬうぅっ! 渦回旋黒嵐アーデルシュヴァルツストーム!!」

 トレガーの右拳から漆黒の大嵐が吹き荒れる。

「させるかよ! 天破星烈拳!!」

 ジュウザの前方に銀河が生じその中心から光の奔流が迸る。

 奔流が漆黒の嵐を純白に塗り替える。

「まだあんな力が残ってんの!?」

「こっ、これでは……」

「いや、待て!」 

 限界を超えたオラティオの燃焼に疲弊しきった身体が悲鳴をあげた。トレガーが吐血する。

「おおっ!?」

「いける!」

 無論ジュウザとアンにもトレガーの吐血は見えており、四つの紅眼が希望に輝く。

「舐めるなぁ! 人族ヒューマン!」


 とはいえ、やはり限界に達していた肉体での変身は無理があったらしく、全身の毛穴から血が噴き出す。

 それでも最大の必殺拳を放てる力は得られた。

礫貫刺突黒神槍アーテルシュヴァルツグングニル!!」

 槍を投じようとする巨神が完全にドミネーターと重なり、彼の右拳が神槍と化す。

「熾星法平拳!!」

「天破星烈拳!!」

 正面から黒き神槍と銀河の中心から迸る光の奔流&天使の剣から疾る光条が激突!

 ドミネーターの拳と二人の少年の拳がせめぎ合う!

 どちらか一方だけなら容易に弾き飛ばされていただろう。だが、ジュウザとアンの拳は互いを支え、補い、高め合い個々の実力を遥かに越える力を発揮している。

 握り潰された水風船が破れ水が飛び散るように、押し合う拳の間で圧迫された”力”が全周へ飛散する。

「うっ」

 飛んできた余波を危うく避けるプリトマート。

 特殊鋼の床、そして壁、天井に無数の穴が穿たれた。

「ジュウザ……」

「王子……」

 二人の少年は死力を振り絞って踏みとどまっている。それでも地力の差は如何ともし難くらしく、腕は細かく震えじりじりと押されていく。

 うつ伏せに倒れていたゾーイが右腕を支えに上体を起こして叫ぶ。

「みんな! あたし達の残ったオラティオでアニキとアンさんを援護しよう!」

 傷ついた身体を支えて放った、もっとも未熟でもっとも脆弱な少女の言葉が、仲間達の心を激しく揺さぶる。

「そうだ! 我々にもまだできることはある!」

「おおっ!」

 立ち上がる力は残っておらず、片膝立ち、あるいはうつ伏せで上体だけを起こした姿勢で、四人の拳戦士が絞り出すように最後のオラティオを燃やす。

「くっ……」

 トレガーを見てもあきらかなように、傷つき疲弊しきった状態でオラティオを高めるのは、肉体への負荷が大きく、四人の顔がいずれも激痛に歪み汗が滴る。

「アニキ……」

「アン……」

 二つの拳とドミネーターの拳の激突はいまだ続いている。だが、ジュウザとアンがあきらかに押されており、二人の拳は肉が裂け血が噴き出し、いまにも消し飛びそうだ。

「ぐっ……」「げっ、限界なのか!?」 

 不屈の意思を持つ二人の少年の顔にも絶望が浮かぶ。

 そのとき――

「アニキー!」「アン!」「ジュウザ!」「王子!」

「「「あたし(私)達のオラティオを受け取って(れ!)」」」

 声の方向から四つの光球が飛来して、ジュウザとアンの身体に飛び込む。

 それによって二人のオラティオは勢いを取り戻し、充実し昂まり、燃え上がる!

 二人の身体から光柱が天井を貫くような勢いで起立し、それでも収まらず余剰分が炎のオーラとなって燃え狂う!

 二人の拳も勢いを増し、ドミネータの拳を押し返す!

 拳が軋み鮮血が噴出し、トレガーがはじめて焦燥で強張る。

「ぬっ!?」

「ドミネーター! オレ達の勝ちだ!」

「これが人族の絆の力だ!」

 最後の力を振り絞るオラティオを燃焼させるジュウザ&アン。

 光の奔流が銀河が蒸発するほど、光条が剣が砕けるほど激しくなる。

 トレガーの拳が爆散する!

「ぐわっ!」

 破壊はそのまま彼の右腕を伝播していく。

「ぐわああぁぁーっ! ばっ、馬鹿な! こ、この私がぁー!!」

 吹き飛ばされたドミネーターの肉体が光の奔流に焼かれ、光条に貫かれ消滅していく!

「……っ」

「かっ、勝った……」

 トレガーの消滅=彼らの勝利を確信すると同時に、安堵と疲労で糸が切れたようにジュウザとアンは崩れ落ち、床に片膝を着いた。

「「…………っ」」

 一瞬の間のあと二人の少年は互いの顔を見やり、爽やかな笑みを交わす。

「アニキー!」「アン、よくやった!」「……っ!」「王子、さすがです!」

 仲間達が傷ついた身体を引きずり、それでも満面の笑顔で近づいていく。

「アニキ、サイコーにカッコよかったよ!」

「今日ほどおまえの姉であることを誇りに思ったことはない!」

「父親もいまのおまえを見たら褒めてくれるだろう!」

「王子……、グスッ」

 仲間達に支えられて身を起こしたジュウザとアンは、笑顔ではあるが瞳には陰りがあり、手と膝もかすかに震えている。

「……本来なら六対一でも二分も持ちこたえられない相手だった。勝利は重なった偶然と幸運がもたらした……奇跡だ」

「主神オデュゼィンよ、戦女神エルストレアよ、感謝します」

 同時に二人の少年が天井の中央を見上げ、仲間達も視線を追う。戦っている間誰一人これ・・のことを忘れてはいなかっただろう。

 トレガーは常にこれ・・を傷つけないように配慮しながら戦っていたはずだ。もしかしたらそれも松陰のひとつなのかもしれない。

 六人の視線のさきで瞬く黒瑪瑙は完成直後のように染みひとつなかった。

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