オレ、宝捜し(トレジャーハンター)。僕、騎士。立場も性格も両極端だけで協力して蛮族を倒します
第41話 FINALPHASE CROSS SPIRIT OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE19-①
第41話 FINALPHASE CROSS SPIRIT OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE19-①
四災の槍旗艦ケルベロス
一般兵には不可能なことでも(高位の)拳戦士である彼らには容易く、ジュウザ・ゾーイ・ダニー、アン・プリトマート・ルックはスピーダーや宇宙服は使わず、身ひとつでケルベロスへ乗り込んだ。
六人が乗り込んだ場所は同艦の
代わりに貴賓を出迎える儀仗兵のように数千の蛮族兵と機動兵器が待ち構えていた。もっとも彼らの武器はすべて殺傷能力を持った本物である。
蛮族の儀仗兵達は半円を描き五十メートルほどの距離をおいて、六人の拳戦士を取り囲んでおり、蛮族達の目は一様に闘争と殺戮への期待でランランと輝いて、舌なめずりをしている者、涎を垂らしている者も多かった。
「大歓迎ですな!」
闘志を掻きたてられたようでルックが不敵に唇を歪め口笛を吹く。
「なんでこんな……。まるであたし達の突入地点がわかってたみたい」
さしもの勝気なゾーイも予想外の大軍と吹きつける殺意の強さに、腰が退けたらしく顔面は蒼白だ。
「量子コンピューターの予測ではここまで正確にはわからんだろう。そうとう優秀な刻詠みがいるらしいな」
過去の経験からダニーが正鵠を見抜き、乱戦で少しでも視界を広くするため、すばやく帽子を畳んでショルダーバックに仕舞う。
「臆するな! 六人なら充分倒せる数だ」
気丈に蛮族を睨むプリトマートも確実に撃破できる敵でも、それによってかなり体力を削られることは覚悟しているようで表情は厳しい。
いかに広大とはいえ艦内なのでさすがに
なにかに引かれたようにアンが彼の右斜め前を睨む。
「もっとも巨大なオラティオはあちらかを感じる」
そこは蛮族達の防御網がもっとも分厚い部分であり、そのこともそちらに司令官が居ることを示していた。
「っ」
ジュウザの右眉がぴくりと動き眉間にも皺が寄った。
蛮族の歩兵達の間では魔法の光が瞬いており、どうやら各種支援魔法がかけられているようだ。
「まずいな。支援魔法がありとなしでは戦闘力に格段の差がある」
目を細めたダニーがいつもの癖で帽子の唾を触ろうと右手を上げかけたが、途中ですでに帽子はショルダーパックに仕舞ったことを思い出したらしく、手を止めた。
「支援魔法なら私も使えるが……」
「あたしも」
この場での戦いは前哨戦と捉えているので、ここで支援魔法を使って精神力を消費してしまうと、本戦である司令官との戦闘が不利になるのではないかと、逡巡しているようでゾーイとプリトマートの瞳が揺れる。
ふいに高く澄んだ美しいとさえ言える笛の音が聞こえた。魔法的なものらしくさほど大きな音ではなかったのに、小さな街ほどもある格納庫の隅々まで響き渡る。
それが攻撃開始の合図だったようで歩行浮遊の両戦車の砲口が一斉に火を噴き、鬨の声を上げた歩兵達の長靴が
歩兵が戦車と同時に進軍するなど常識ではありえないが、それはあくまでも”一般”兵の場合で彼らはみな超常の力を持った拳戦士なので問題はない。その証拠に
「っ!
前に出たルックが大きく両腕を左右に伸ばしてオラティオを燃やすと、彼を中心に数百人の
「長くは待ちませんぞ!」
「っ。僕が突破口を開きます!」
先陣を切って蛮族の陣形を崩すためにアンが走り出そうとする。
だが、ジュウザが彼の肩を掴む。
「ジュウザさん?」
怪訝な表情で振り返ったアンに悪戯っぽくジュウザが片目を瞑った。
「あんなもん律儀に相手する必要はねぇよ」
片膝を着いたジュウザがショルダーバックから、いくつか
「待て! 核や反物質爆弾、BC兵器は我々にも被害が及ぶ可能性が……」
詰め寄ろうとしたルックの拳をアンが掴みジュウザに信頼の視線を向ける。
「ジュウザさんは聡明な人です。信じましょう」
レオハロードの主従が話している間にジュウザの作業は終わり、大型の打ち上げ花火のようなものがセットされた。
「耳塞げ」
ゾーイとダニーは言われる前からそうしており、三人の救星拳騎士も指示に従ったのを見て、若き宝捜しが彼の通信端末のボタンを押す。
文字通り花火が打ち上げられるように、拳大の黒球が格納庫の天井ぎりぎりまで射出され、それは空中で制止して下部を開く。
瞬時に無色無音の波動が波紋のように格納庫全体に広がり、それはアンやプリトマートの肌を泡立たせた。
四足歩行戦車が
「電子機器のみを破壊する『未定』兵器か!」
聡明なプリトマートは瞬時に攻撃の正体を看破した。
「正面から相手するだけが戦いじゃねぇ。シャビィタウンのときは突然の侵攻だったが今回は機動兵器との戦闘が予想されるんだから、当然これぐらいの準備はしてるさ」
指摘したら「オレはそんなガキじゃねぇ」と反発するだろうが、やはり策がはまって嬉しいらしくジュウザの頬は緩んでいる。
「反物質爆弾やBCと違って『未定』兵器なら
ゾーイは兄の策が的中したことが嬉しくてしかたないようで、ドヤ顔で得意げに右の人差し指で鼻の下を擦っていた。
「敵の兵器を売り飛ばすなどまるでハイエナかハゲワシではないか!」
憎まれ口を叩いたもののドラゴノイドも若き宝捜しを、賞賛と尊敬の目で見やっている。
「っ。ちょっとまて。それでは私達の通信端末も……?」
賞賛の笑みを浮かべていた顔を引き締め、プリトマートがズボンのポケットを左手で探った。
「その点は抜かりねぇ。蛮族帝国の規格の機器だけを破壊するように周波数を合わせてある」
ポケットから取り出した端末が正常に作動したので女救星騎士は納得顔になったが、すぐに疑惑の視線を若き宝探しに向けた。
「救星拳騎団や共和国軍の装備の規格は一般には秘匿されているはずだぞ? まして蛮族帝国となると……」
やや
「蛇の道は蛇。おぜぜの世の中だ」
裏事情を察したらしく女救星騎士は一瞬顔をしかめたが、すぐにいまはそんなことを考えている場合ではないと、自分を納得させたようで蛮族達を見やった。
上級蛮族の知能は人間と同等であり、ドミネーターと蛇女鬼にいたってはあきらかに人間より高い。彼らにも優れた指揮官がいたらしく蛮族軍はすぐに統制を取り戻した。機動兵器に登場していた兵は格納庫の外へ撤退していく――もちろん人命を尊重してではなく、ただ単に邪魔になるからだ――。
「でも士気までは戻っていない! 攻めるならいまだ!」
今度こそアンが駆け出し、プリトマートとルックも続く。少し遅れてジュウザを先頭に三人の宝探しも突貫。
本来なら一撃で
代替手段として三人の宝探しはバックパックから取り出した――流通品より数倍威力を上げた――
攻撃が蛮族軍に炸裂して爆発が生じ、数十人のオーガーやトロールが宙に舞う。
蛮族達の血や四肢、内臓が雨となって降り注ぐが、地獄の雨を浴びても六人の拳戦士はまったく速度を落とさない。
いや、褐色の少女だけは顔を強張らせ吐き気を覚えたのか右手で口元を抑えたが、それも一瞬で気丈にも大きく頭を振って嫌悪を振り払うと走る速度をもとに戻した。
少女は決して立ち止まらなかった。
彼女の兄である若き宝探しは刹那痛ましげ視線を妹に向けたが、そんな感傷に囚われていては彼も妹も死ぬと眼前の蛮族を睨み据える。
「っ。姉さん、ジュウザさん」
「ああ」
ジュウザ達の攻撃で多数の死者が出て蛮族の陣形は毛ほども乱れず、両翼は広がったのちに窄まり、真円を形作って六人の拳戦士を包囲した。人族の軍のように家族や同胞、故郷を護りたいという使命感や正義感ではなく、恐怖と我欲のみで統制されている蛮族軍だが、規律の堅固さは劣らない。
百八十度の全周から蛮族の拳戦士どもが一斉に襲いかかってきた。食人鬼の
六人の拳戦士は宝探しチームと救星拳騎士チームで、それぞれ三人で互いの背中を守り、死角をカバーしあっている。蛮族達は彼らを分散させて各個撃破しようとしており、ジュウザ達は懸命に陣形を保とうとしているものの、濁流の中で踏み留まろうとするようなもので、次第に押し流され分散されていく。
「きゃっ!」
もっとも実力的に劣り実戦経験も乏しいゾーイが、やはり真っ先に流される。
「ゾーイ!」
妹の窮状に気づいたジュウザが彼女に駆け寄ろうとするが、蛮族の戦槌と突撃槍に阻まれた。
「くっ、どけぇー!」
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