第40話 FINALPHASE CROSS SPIRIT OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE 18

共和国標準時ザナドゥエデン 共和国暦RD30052年5月14日PМ16:39

 共和国内人族軍と蛮族軍の最前線領域フロントラインリージョンダミエッタ星系首都惑星スターシステムキャピタルプラネットダミエッタ星近郊宙域


 ダミエッタ星と星系の太陽を背景バックに幾多の花火が生じ散っていく。それらはまさに人族と蛮族の命によって描かれた生命いのちの華だ。

 ジュウザチームとアンチームをケルベロスへ乗り込ませるために突貫攻撃を敢行したダミエッタ星軍は戦力の23%を失いながらも目的を達し、六人の搭乗したアレイファルコンとローズユニコーンはケルベロスに肉薄していた。


「でかいな」

「はい。遠目では長槍ランスでしたが近付くとまるで山脈です」

 アレイファルコンとローズユニコーンの船上に立ったジュウザとアンが言葉を交わす。すでに六人全員が船上に出ており二隻の宇宙船自動操縦オートパイロットで飛行していた。

 高位の拳戦士は生身であってもオラティオによって宇宙空間でもある程度活動できるので、誰も宇宙服スペーススーツは着ていない。

 歴戦のジュウザとダニー、プリトマートとルックはこのような状況も何度も経験済みらしく、多少は緊張しているものの余裕がある。しかし、いかに実力があっても経験が浅くこんな大規模戦闘ははじめてのゾーイは、可憐な顔は強張り蒼白で膝もかすかに震えている。

 妹の様子に気づいたジュウザが彼女へ一瞥を投じる。

「精神を集中させろ。恐怖を意志力で制御しろ。ビビッていたら実力を出せねぇ。戦女神エルストレアは勇気ある者にこそ微笑むんだ」

 ここに及んではジュウザも逃げろとは言わず、戦場において少しでも妹の生還率を高めようとしていた。

「わっ、わかってるよ! こんなのぜんっぜん怖くないよ! これは武者震いだよ!」

 勝気な少女が無理矢理作った笑顔は引きつっており、膝の震えも止まっていなかった。

 それを指摘されるのを防ぐためか、恐怖をごまかすためか、褐色の少女は周囲へ視線を巡らせる。

「きれい……」

 無数の生命の花火が咲き極彩色の光条が飛び交う戦場はたしかに非常に美しく、まるで万華鏡の中にいるようだ。

 槍型陣形でケルベロスに達したダミエッタ艦隊は突入部隊の退路を守るべく、槍型から扇を広げるように百八十度に広がり、四災の槍の艦隊を食い止めている。

 だが、優勢とはいえず一秒ごとに数百の命火が消えて行く。

「きゃっ」

 美しさに感嘆したあまり意識が開けていたためオラティオを通じて戦死した兵士の、苦痛と恐怖をもろに感じたらしくゾーイが顔を抑えてよろめく。

 傍にいたダニーがすかさず彼女を支える。

「大丈夫か」

「辛いならオラティオを通じて感じる外界の情報を遮断しろ。やりかたはもう覚えてるはずだ」

 兄の気遣いに褐色の少女は頭を振ると、気丈に頭上の戦場を見据えた。

「ううん。あの人達はあたし達を護るために死んでるんだから、あたしにはあの人達の最期の感情を受けとめる義務があるよ。それから……絶対逃げない!」

 妹の優しさが痛ましいらしく若き宝捜しが視線を逸らす。

「……無理するなよ」

 ゾーイの純粋さが眩しいらしく、プリトマートは乳房を持ち上げるように両腕を組んだまま微笑まし気に目を細め、ルックは涙ぐんでいる。

 比較的近くで二隻の人族軍の宇宙戦艦バトルクルーザーが爆発し、それによって生じた強烈な光が眼に差し込み、ドラゴノイドが頭上を見上げた。

「……そうとうに……押されとるな。おまけにひどい乱戦だ。この戦況で本当にレリクスの力で蛮族軍だけを一掃できるのか?」

「うん。それは大丈夫だよ。安心して」

 右拳でドンと胸を叩きゾーイが、自信を示すために背を反らす。

「……しかし、せめて杖の操作は生命の巫女であるお主がやるべきでは……」

「大丈夫だって。たしかに起動は生命の巫女にしかできないけど、一度動き出せば操作は普通の高位魔導士や神官でも問題ないから。創った忘れられた神のおっちゃんがそう言ってたよ。あたしは突入部隊で戦った方が絶対有効だよ!」

「…………」

 まだルックは確信までには至っていないようで難しい表情だが、現状では生命に巫女の判断と杖の力を信じるしかないと覚悟を決めたらしく、それ以上なにも言わなかった。

 アンがポケットから取り出した通信端末の画面ディスプレイを見て眉間に皺を寄せた。

「もう16:41です。この船の阻止限界点到達予測時刻が18:23だからもう二時間もありません」

 頷くとジュウザはゾーイとダニーだけでなく、プリとマートとルックも見やった。

「念には念だ。全員通信端末の時刻セットを確認しておけ」

 プリトマートとルックはジュウザがリーダー面したことがやや不満なようだが、意見は正当なので従った。

 現在彼らはそれぞれの奥義で防御壁と装甲を破壊してケルベロスに乗り込むべく、同艦に最接近を試みており、必殺技を放つ予定の地点ポイントにたどり着くまではわずかに時間があった。

 アン、プリトマート、ルックは救星拳騎士の正式な戦闘服バトルスーツに身を包んでいた。大口径レーザーや対艦ミサイルの直撃にも耐えられる特殊繊維製で、色は白がメインでそこに青いラインが走っており、利き腕(アンとプリトマートは右、ルックは左)の肩と前腕は装甲で覆われている。その姿は統制が取れていて完成し適切な額に収まった名画を思わせた。

 対してジュウザ、ゾーイ、ダニーは特殊繊維の戦闘服を着こんでいることは同じだがスーツ、手袋、ブーツすべて違う会社メーカーの商品――最高品質の物を揃えった結果だ――で、そのうえ装備を付けたアーミーベストやショルダーバックも背負っており、三人の救星拳騎士に比べると――防御力では劣っていないのだろうが――、乱雑で未完成のジグソーパズルのようだ。

「ジュウザさん」

「おう」

 二隻が予定地点に達したことを報せる着信が、それぞれの通信端末に届く。

「いよいよだね」

 ゾーイが右腕をぐるぐる回しながらジュウザの隣に進み出てダニーもその横に並ぶ。プリトマートとルックもアンの両脇を固めていた。

「いや、これならオレとアンだけで破れる」

「姉さんやゾーイさん達は力を温存してください」

 ジュウザとアンは微笑んだもののその笑みは固く、十キロ近い大きさの戦艦をくまなく覆ってこの強度なら、防御壁の力の源であるドミネーターはどれだけの強大さか震撼しているようだ。

「しかし……」

「王子、及ばずながら私も……」

 他の四人は不満があるようだがジュウザとアンに強く睨まれ、無言で退く。

「ジュウザさん、主導してください」

「オレとおめぇの息の合い方なら以心伝心で充分だぜ」

 ジュウザに信頼されたのが嬉しいらしくアンが照れ臭そうに微笑む。

 若き宝捜しと救星拳騎士がそれぞれのやり方でオラティオを高め練り上げていく。

「天破星烈拳!!」

「熾星法平拳!!」

 ジュウザの背後で銀河が渦巻きその中核から光の奔流が迸り、アンの背後に浮かぶ無数の天使が構えた長剣から光条が疾る。

 奔流と光条が絡まり合い一筋の螺旋となって艦を守る防御壁と激突!

 両者は数瞬せめぎ合っていたものの光の螺旋が防御壁を穿ち、その背後の装甲も貫く!

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