第35話 PHASE4 OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE 14-①

共和国標準時ザナドゥエデンスタンダードタイム 共和国暦RD30052年5月12日PМ14:05

 共和国内人族軍と蛮族軍の最前線領域フロントラインリージョンダミエッタ星系首都惑星スターシステムキャピタルプラネットダミエッタ星第一大陸星系軍総本部


 


 ローズユニコーンとアレイファルコンは無事ダミエッタ星に着陸できた。同星系の制宙圏はほとんど四災の槍ディザスターランスに奪われていたが、艦隊は第五惑星とダミエッタ星第四惑星の中間で食い止められており、本星周辺は辛うじて人族軍が死守していたおかげだ。ただドライブアウトする場所を狭い範囲から選ばなければならないので、それには手こずった。

 普通ならいくら強力な拳戦士フィスターとはいえ戦争に協力を明言もしていない宝捜しトレジャーハンターは拒絶されていただろうが、アンの計らいでジュウザ達は第一大陸に存在するダミエッタ星系軍総本部に宿泊を許されていた。


「アニキ、いくらなんでも飲みすぎだよ!」

 ジュウザが口へ運ぼうとしていた琥珀色の酒が注がれたコップを、ゾーイが伸ばした右腕で掴む。

 ジュウザの前の机には空になった酒瓶ボトルが三本も転がっており、四本目も三分の一まで減っていた。

「ここに着いてからずっと飲みっぱなしじゃないか!」

 ジロと妹の顔を睨むと若き宝捜しは彼女の手を振り払って、グイッと酒を煽る。

 ジュウザ達には軍本部のゲストルームが与えられていたが、かなり高級な部屋で基地を訪れた軍や政府関係者でも高位の者でなければ宿泊を許されない部屋であり、本来なら無頼の宝捜しはとても泊まれないだろう。三人一部屋だが――さすがに固辞したものの――アンはそれぞれに個室を用意しようとさえしたのだ。

 その気遣いが心に痛い。それだけでなくアンには自分の命と妹を助けてもらった恩もあるのに、ダミエッタ星を守る戦いに参加してくれという彼の頼みを承諾しておらず、それどころかようやく見つけた神具アーティファクトの手がかりであるレリクスを諦めきれずこの場に留まっている。いくら認識阻害化粧をしているとはいえ長時間傍にいると自分がジョンだということまでアンに気付かれるかもしれない……。さまざまな想いがジュウザの中で交錯しているようだ。

 若き宝捜しの心の中でいくつもの思考が渦巻きせめぎ合い、混ざり合って漆黒と化し意識を黒く塗り潰しているのだろう。

 その証拠に普段は陽光を浴びた紅水晶レッドクリスタルのように澄み輝いている少年の紅眼は、曇天を透かしたように昏く淀んでおり、眉間には深い皺も刻まれている。

「アニキ!」

 その言葉には答えずジュウザが手酌で酒をコップに注ぐ。

「わかった!」

 ゾーイが持ってきた椅子を兄の対面に置き、両袖をめくってその上に胡坐をかく。

「アニキがやめるまであたしも一緒に飲む!」

 共和国の大半の星で飲酒(と喫煙)が許されるのは十八歳からだが、そんな規則を律儀に守っている者はほとんどおらず、家業が荒っぽいこともありゾーイも十歳から飲んでいる……、どころかかなりの酒豪だ。

 また、兄のために無茶な飲酒を止める以外にも、彼女自身罪を償うために共和国の民に尽くすと約束したのに、ジュウザの許可がなくダミエッタ星の戦いに加われず、苛立ちと負い目を感じているので、それをアルコールでごまかしたいという理由もあるようだ。

 そんな兄妹の様子をダニーは部屋の反対側のベッドに腰かけて眺めていて、彼も酒の入ったコップを持っているが、はじめて酒を飲む女子供のように表面をチビチビと舐めるだけなので、中身はほとんど減っていない。もちろんこんな飲み方は彼の本来のものではない。

 かすかに開きかけた口を固く引き結ぶと机に叩きつけるようにコップを置き、ジュウザが立ち上がる。

「アニキ?」

 若き宝捜しは扉の前で立ち止まったが振り返らない。

「外の空気を吸ってくる。おまえは部屋から出るな。アン達に正体がばれないように注意しろ。有事のときはダニーの指示に従え」

 それだけ言うとジュウザは部屋から出て行った。

 ゾーイは兄の出て行ったあともずっと扉を見ていたが、追いかけようとしなかった。

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