第34話 PHASE3 OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE13
一時的に和解したジュウザ
一秒の時間も惜しいため
杖の起動はもともとの想定搭乗者数が多く船体も一回り大きいローズユニコーンの
万が一事故が起きて船体がばらばらになり
杖は刻まれたすべての
壁際で”儀式”を見守るジュウザとダニー、アンとプリトマート、ルックの表情はどこか不安げで身体も強張り気味であり、特に女救星拳騎士は親指の爪を噛み片足の爪先を上下させていた。
ゾーイの声が一際高くなりそれに伴って歓喜の叫びを挙げるように両腕を大きく広げ、背を直角近くまで逸らせる。
同時に杖の文字すべてがこれまででもっとも激しく銀色に輝き、
儀式が完了したことを察したジュウザが固く組んでいた両腕を緩め、プリマートが上下させていた爪先を止め、アンとルックも一歩踏み出す。
振り返ったゾーイが額の汗を右手で拭いながらニカッと笑う。
「終わったよ」
他の五人がチームに関係なく顔を見合わせ、一斉に杖と生命の巫女に駆け寄る。
「これは……」
「いままでとはまったく違うぜ」
これまで杖は巨大な力が宿っているとはいえ枯れた古木で作られていたので干からびた老人のイメージだったが、いまは若木か青春を生きる若者のように生命力に満ちていた。
なんの気なしに杖を手に取ったアンが両目を見開く。
「暖かい! まるで生き物みたいだ」
プリマートとルックも歓喜の笑みを浮かべて、杖が彼女達の赤子であるかのように愛おしそうに表面を撫でる。
「起動には間違いなく成功したようだな」
「これでダミエッタ星を救えますな」
笑顔を引っこめてむしろ暗い顔で褐色の少女が頭を振る。
「ううん、すぐには無理だよ」
思いがけない言葉に他の五人が同時にゾーイへ振り向く。
「杖が力を発揮するためには”力”を
「どれくらいで充填は完了するんですか!?」
頭の中で計算をしているらしくゾーイの視線が遠くなる。
「いまはほぼ空っぽだからフルパワーを発揮するには……七十二標準時間ぐらいかな」
固くなりかけていた救星拳騎士達の表情が再び和らぐ。
「それぐらいならば持ち堪えられますな」
「うむ。肝を冷やしたぞ」
再びレオハロードの姉弟は慈しむように杖を撫ではじめた。
その姿を見ていたゾーイが柔らかだった表情を引き締め、姿勢も正してアン達に向け言葉を発した。
「アンさん、プリトマートさん、ルックさん」
ふいに声をかけられた理由を理解できないらしく、三人の救星拳騎士は怪訝な表情で褐色の少女へ振り向く。
「……っ。ごめんなさい!」
ゾーイが一気に額が膝に当たるほど深く頭を下げる。
「あたしはダミエッタ星でアンさん達を殺そうとしちゃった。謝ったくらいですむことじゃないことはわかってるけど……。ほんとうにごめんなさい!」
一瞬虚を突かれた表情になったもののアンは、すぐに微笑みゾーイに歩み寄って彼女の肩に手を置いた。
「気にしないでください。あのときゾーイさんは
罪悪感でアンの顔を直視できないようでゾーイは腰を折ったままだ。
「でも……」
「共和国の法律でも魔法や薬物で操られている間は心神喪失状態なので、なにをしても罪には問われません」
「でもそれじゃあたしの気がすまない!」
勢いよく上体を起こした褐色の少女が、すがるような目でレオハロードの王子を見やる。彼女は罰として罵倒や叱責、殴打を求めているのだろう。
ここで気持ちに決着をつけられなければこの件は今後のゾーイの人生に重大な傷跡を残すと理解しているらしく、ジュウザとダニーは気遣わし気な痛ましげな視線を彼女に向けているものの、なにも言わない。
「貴女が罪悪感を感じているなら僕ではなく、共和国の罪なき民に尽くすことで償ってください。生命の巫女である貴女にはそれができるはずです」
「……っ、……わかった!」
目に涙が浮かんでいたがゾーイが、ようやく彼女に相応しい闊達な笑みを浮かべる。
妹がなんとか自分の気持ちと折り合いをつけられたことを見たジュウザの肩から、安堵で力が抜けた。
ゾーイとアンの初々しいやり取りをプリトマートは胸を持ち上げるように両腕を組んで微笑みながら眺めており、ダニーも唾の下の顔は微笑んでいた。
だが、なにかに気付いたらしいルックが鋭い目でジュウザを睨む。
「いまさら寄越せとは言わんだろうな?」
ゾーイとダニーが左右からジュウザに問うような眼差しを向ける。
「……。……っ。ああっ、もう諦めた」
そうは言ったもののやはりようやく手に入れた
半世紀以上に渡って王族の子供の警護や指導をしていたドラゴノイドは、ジュウザの視線に含まれた感情に気づき疑わし気な表情だ。
「お主、本当に……」
従者の言葉を遮ってアンが前に出る。
「ダミエッタの戦術量子コンピューターの予測では、ダミエッタ軍はあと九十六時間は四災の槍から本星を守れます。ですが万が一もありえないとは言い切れません」
一端言葉を切りアンは強い意志の籠った瞳でジュウザの目を見据えた。
「いまは一人でも多くの優れた拳戦士が必要なんです。無論相応の報酬はお支払いします! ダミエッタ星の防衛戦に協力してください!」
アンが深々と腰を降りプリマートとルックも頭こそ下げなかったものの、懇願の視線をジュウザ達に向けた。
「…………っ」
俯いたジュウザの頭はかすかに揺れ、心の中でさまざまな思考が錯綜しているらし、く紅い瞳は目まぐるしく瞬いている。
葛藤するジュウザにゾーイはあたし達も戦おうよ! と、ダニーはおまえが自分で決めろと目で言っていた。
顔を上げた若き宝捜しはまず妹へ次いで銀河忍者へと視線を向け、そのあと意を決したようにアンと向き合った。
「悪いが……」
ジュウザの紅眼にアンの背後の杖が映り言葉が途中で止まった。
「……しばらく考えさせてくれ」
彼の出した結論は問題の先送りだった。
「貴様、命を助けられたうえ王子が頭まで下げておられるのに……」
「いいんですよ、ルックさん」
レオハロードの王子が快活な笑みを刻む。
「いまはそれで充分です」
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