第32話 PHASE3 生命の巫女 OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE 12ー①
共和国辺境「未定」古の忘れられた神の神殿
「未定」は首都惑星と酸素濃度は同じだがやや小さく重力も少し弱い惑星で、面積の八割が海で陸地は大半が緑豊かであり、動物は数多く生息しているが
神殿は現在の銀河で信仰されているツゥアハー・デ・ダナーンの神のそれとも、アス・ヴァ・フォモールの神の神殿ともまったく違った。一言で言えば極めて
そしてこの場にジュウザ達とアン達は同時に到着した。
円形の舞台の中央でジュウザとダニー――ゾーイは二人の背後の浮遊担架に乗せられている――と、アンとプリマート、ルックは対峙していた。
ジュウザは外れてくれと願っていた予想が的中したため、苦虫を噛み潰した表情である。
とはいえ現状を予想して彼とダニー、意識不明のゾーイにまで
「ジュウザさん……でしたよね。やはり貴方もここへこられたのですね。妹さんはまだ目覚めておられないようですね」
敵意がないことを示すために両手を広げたアンが、柔らかい声音でにこやかに語りかけた。彼の隣に立つプリトマートと背後に控えるルックも、ジュウザが
ジュウザ達は三人とも――ゾーイにも――認識阻害化粧をしていたので、アン達は彼らの正体には気付いていない。
「…………っ」
ジュウザは
「ご推察のとおりあの箱の中に杖が入っています。妹さんを目覚めさせるために杖が必要なのですか? それならお貸ししますよ」
プリトマートとルックもゾーイを助けることに協力する代わりに、生命の巫女である彼女の協力を取りつけるアンの計画を聞かされているので、無表情を保っている。
「…………っ?」
お人好しのアンの申出はともかく他の二人が異議を唱えないことに違和感を覚えたのか、ジュウザが警戒で目を細め、ダニーも右手で帽子を唾を上げた。
「でもゾーイさんを目覚めさせたあとはもう一度僕に返してください。そして協力してください。ゾーイさんは生命の巫女ですよね?
「…………っ」
アンは自分が杖を必要としている理由は妹を助け――事実はやや違うのだが――るためだけであり、一時的に貸与すればすべて解決すると考えていることが、やりきれないようでジュウザの眉間の皺が深くなり表面が割れるほど強く石畳を蹴った。
「ジュウザさん?」
この申出で万事丸く収まると思っていたアンは、ジュウザの反応が理解できないらしく不思議そうな表情だ。いまだ彼は警戒していないがプリトマートとルックは身を強張らせた。
とはいえジュウザも友と戦うことと矜持を捨てることにはかなりの抵抗と躊躇があるのだろう。なんとか戦闘を回避する方法、妥協案を探しているようで紅い瞳は小刻みに瞬いている。
「
どのレリクスでもその情報は共和国(全体)の
「ジュウザさん?」
逡巡を振り切るため大きく頭を左右に振ると若き宝差しが拳を友に突きつける。
「いやなんでもねぇ。オレはどうしてもその杖が必要なんだ。悪いが奪わせてもらう!」
「貴様は
激昂したルックが鼻孔から炎を噴き出しながらジュウザに詰め寄ろうとしたが、アンが彼の前に腕を伸ばして制止する。
「なぜです!? 貴方の目的はゾーイさんを助けることなんでしょう!? 彼女を目覚めさせればもう杖は必要ないはずです!」
「事情が変わったんだよ!」
瞬間的にオラティオを燃やしたジュウザが跳び蹴りを放つ。
だが、アンも瞬きする間にオラティオを高め跳び退って回避する。
「事情ってなんです!?」
なおも対話での解決を諦めない弟の肩を女救星拳騎士が掴む。
「所詮賤業者は賤業者だったということだ。大方どこかでレリクスの価値を知り欲が出たのだろう」
アンは姉の意見を受けいれらないらしく、彼女とジュウザの間で何度も視線を往復させた。
「行くぞ! ルック!」
「姫様、お供します!」
駆け出そうとした二人の救星拳騎士の足元に数本の苦無が着弾する。速度が光速に近かったので盛大な爆発が起こり、プリトマートとルックの足が止まった。
爆煙が視界を遮っている間にダニーがジュウザに駆け寄り、耳元で囁く。
「本当にいいのか?」
「ああ」
「汚れ役は俺が……」
「そんな卑怯な真似できるわけねーだろ!」
一歩踏み出したジュウザが右拳を引く。三人の救星拳騎士が手強いことを理解しているので、三対二と人数的に不利な状況でもあり、必殺技で一気に決めるつもりなのだろう。
彼の背後に
「
ジュウザの右拳と銃口が重なり六発の炎弾を発射。
灼熱の弾丸は巧みに
「ハッ!」「ぬん!」
後ろ回し蹴りで炎弾を弾き返す女救星拳騎士。ドラゴノイドは左腕で
攻撃は防いだものの二人に一瞬生じる隙。
「
ダニーのわずかな
噴き出す鮮血!
「ぐっ!」
「姉さん!」
さすがにアンも血相が変わり姉へ向かって駆け出しかける。
「だっ、大丈夫だ」
苦痛に歪む顔で気丈に笑顔を作り、プリトマートは弟を制止するために彼に向かって左手を広げた。
「……くっ」
プリトマートが身体に刺さった手裏剣を自分でひとつひとつ引き抜いていく。勝気な彼女は苦悶を漏らすことを恥と考えているのだろう。そうとうな痛みを感じているはずなのに、歯を食いしばって声を上げない。
「姫様、ご立派です!」
主である少女の気高い姿にドラゴノイドの従者の双眸から涙が溢れた。
最後のひとつを抜き取り石畳に叩きつけた女救星拳騎士が宝捜し達を睨む。
「ダミエッタ星の遺跡ではこちらの命を奪わない配慮を感じたが、今回の攻撃にはあきらかな殺意があったぞ」
「たしかに!」
加害者であるジュウザとダニーは弁明をするでもなく、オラティオを高めたままプリトマートとルックに対して構えを取っている。
「っ」
眼前で
ジュウザの前で立ち止まったアンが正面から若き宝捜しの目を睨み据える。
「ダミエッタ星の遺跡で言いましたよね。どんな理由があろうと僕の家族を傷つけることは許さないと!」
妹を助けるためでなく神具を見つける(=一人前になるという個人的なエゴのため)、アンの家族を傷つけ、ダミエッタ星の民を犠牲にして杖を奪おうとしている自分には、いかなる釈明の余地もないと考えているらしくジュウザはなにも言わない。
しかし、決して目を逸らさず
プリトマートとルックが手裏剣を引き抜いているとき、絶好の
チラとアンが舞台の外に浮かんでいる浮遊担架を見やる。ジュウザとダニーを戦闘不能にしたあと、杖の力でゾーイを目覚めさせて――実際には知識不足で彼には不可能なのだがアンはそのことを知らない――なんらかの手段で協力を得ようと考えているようだ。
その時点で降ろされた劇の幕が再び上げられるように、ダミエッタ星の遺跡で中断されたのと同じ状況から、二人の戦闘が再開される。
アンが救星拳騎団に伝わる呼吸法と動作で一気にオラティオを臨界にまで高める。身体かオーラが輝く柱のように起立。力の放出に伴う余波で彼を中心に竜巻が発生し、石畳に亀裂が走っていく。
アンの攻撃を回避する資格はないと思っているらしく、正面から受けとめるためジュウザもオラティオを極限まで燃焼。彼の身体からもオーラが輝柱として起立。竜巻が渦巻き足元から全周へ亀裂が伸びて行く。
彼ら激突の前哨戦のように二人から生まれた竜巻と亀裂が両者の中間でぶつかる。
その瞬間ジュウザとアンのオラティオが爆発!
ジュウザの周囲が瞬きよりも短い間に宇宙に塗り替わり彼の頭上に銀河が浮かぶ。
アンの周囲が虹色の雲の浮かぶ蒼穹に塗り替わり無数の天使が飛び交う。
銀河中核のブラックホールが周りの星間物質を吸い込み、その過程でそこを中心にエネルギーの螺旋が生じる。
虹色の雲が七色の光を発し蒼穹全体が蒼く輝き、天使達が片腕に携えた長剣で一点を指し示す。
「
「
螺旋が中心へ収束し凄まじい光の奔流となって噴き出す!
七色の光と蒼き輝きが天使の剣へ収束し無数の光条となって放たれる!
奔流と光条が二人の中間で激突!
二つの巨大な力が押し合いせめぎ合う!
「くっ、うおおぉぉーっ!」
「ぬうっ、うおおぉぉーっ!」
両者が限界を越えてさらにオラティオを昂める!
力の衝突も臨界を越え爆発!
「ぐわっ!」
「うっ!」
爆発が天地を揺るがす。強烈な爆風が全周へ吹き荒ぶ。光の奔流と光条がすべての方角へ弾け飛ぶ!
二人の必殺拳の威力はまったくの互角。ゆえに爆風で飛ばされたジュウザとアンは等距離背中で石畳を抉り止まった。
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