第30話 PHASE3 生命の巫女 OUTLAW SIDE11ー② & KNIGHT SIDE11-①
雷のように脳内で記憶が閃き記念だと思って撮っておいた、トレダスト星で手に入れた”ペン先”の立体映像を映す。
「おおっ、それじゃ! なんたる僥倖! まさかおまえがすでにそれを持っていたとは!」
よほど驚いたらしく水槽の中でグノーシスは抱えていた膝を離し立ち上がった。
「呪文というのはこれだろう!? 読み方を教えてくれ!」
ペン先に掘られた文字列を指す指は希望と興奮で震え、言葉もどもらないようにするのに
苦労した。
「うむ。△×〇◎~~♪~だ」
記憶術は宝捜しの基本技能だ。通信端末や紙に書いただけで覚えていなかったら、それを紛失したら大事な情報を喪失することになるし、
脳細胞に呪文を刻み込みたしかに記憶した。
「っ」
これで
もうこの場に用はねぇ。ダニーを見やると同意見らしく目だけで頷いたので頷き返し、グノーシスに「世話になったな。恩に着る」と言葉を投げかけて踵を返す。
「待て。その杖についてもうひとつ重要な情報がある」
「…………っ」
同時に立ち止まったダニーが困惑の表情をこちらに向けているが、オレは心当たりがあった。
もう一度情報屋に向き直り「なんだ。それは」と問う。
「五百億」
「……いいだろう」
「おい」
ダニーの制止を右手を上げて抑え左手で通信端末のボタンを押すと、傍らの運搬車ドロイドが再び大量の財宝を吐き出す。
人造人間が皺だらけの顔を綻ばせたがこの表情だと好々爺に見えなくもねぇな。笑みの理由は単純な金銭欲かこの収入で欲しかった実験材料かなにかが買えるからか……。
「おまえは懸命だな。いや、勘がいいと言うべきか。ダミエッタ星の
「…………っ!」
やはり……。勘が当たった。トレダスト星の宝は銀河最大の神具の手がかりだという、ギガンテックイヤーの情報は正しかったのだ。
一瞬歓喜で体内に火が生じたように身体が熱くなり右手を握りかけたが、神具の所在を探るには杖を借りるのではなく、完全に奪わなければならない――詳細に解析するには杖の確保は必須留――と気付き指が途中で止まる。
(ダミエッタ星系を救うのにあの
「未定」で再び鉢合わせする可能性さえある。考えようによって杖を奪取する千載一遇の
「…………」
神具を手にして親父を超え”一人前”になるのは人生の目標だ。しかし、他人の所有物を盗むという宝捜しの矜持を放棄する行為をしてそれを成し遂げて意味があるのか!?
内心の惑乱と葛藤を抑えるために拳を固く握りしめ、喉に魚の小骨が刺さってるみたいなひっかかりが残ったが、「妹を助けるのがさきだ」とこの場は強引に自分を納得させた。
KNIGHTSIDE 11
共和国首都星系首都惑星《キャピタルスターシステムキャピタルプラネット)ザナドゥエデントトリスメギストス大神殿
僕の眼前には共和国全体の同教の神殿と教会を統括するトトリメギストスの大神殿が陽光を受けて眩しいほど輝いています。なぜこれほど反射が激しいかというと建物が金属で出来ているからであり、ほとんどの神の神殿では石や窯焼き煉瓦などの天然素材が好まれ、
この神殿は地上五千メートルの高さ――機械的な重力制御ではなく神の力で浮遊しています――に存在しているのに、周囲には雲を突き抜けた超々高層ビルがいくつもあり、スピーダーやビーグルも飛び交っています。神殿は直径四百メートルの円形の大地の上に建造されていてこの場には豊かな緑と水がありますが、ザナドゥエデンの地上にはもはやどこにも存在しません。共和国が建国されてから三万年の間に建物が――海面以外の――惑星全土を埋め尽くしてしまい、いまでは酸素も水も機械によって生成浄化され、原住の動植物は室内動物園にしか生息していないのです。
空の青さだけは一般の惑星と変わわないものの、空のさらに上にはザナドゥエデンを何十にも取り巻くオービタルリングや、もはやこの星の政府でさえ総数と実態を把握できていない数の宇宙ステーションと小惑星基地があります。
僕の隣にはプリトマートが一歩うしろにはルックさんがおり、首だけ動かしてチラと背後を見やると
僕達は杖を解析するためにザナドゥエデンに来たのですが、もしここでもわからなかったら……。
「アン」
姉に頷き僕は一歩踏み出しました。
駄目でした! 建国から現在まで共和国のすべての情報が収められていると讃えられている、トトリスメギストス大神殿のメインバンクでさえ杖の起動方法はわかりませんでした。もはや残された手段は……。
僕とプリトマートとルックさんはトトリスメギストスを現世にお迎えするための部屋である降臨の間にいます。知恵の神を招いて直接杖の起動法を訊ねるためです。
降臨の間は円形で丸天井ですが意外と狭く僕や姉の学校の教室と大差ない面積であり、壁床天井すべて金属製で知恵の神をお迎えする部屋に相応しく、内壁全体の半分に書物とディスク、USB端末の絵が描かれ、残りの半分は原子の構造図とさまざまな科学式、多種の言語の文法で埋め尽くされています。
トトリスメギストスは神の中では非情に珍しい眼鏡をかけた神様で、常に書物と巻物を携帯していたと伝えられており、僕達の正面に立つルックさんよりも大きなかの神の神像も、左脇に二つ折りのノート型タブレットを携え、右手に開いた書物を持たれています。
「アンフォアギブン・ミクシード・レオハロード。
神像と僕達の間に立つ最高司祭殿が繊指で
最高司祭殿は床に達するほど長い銀髪の眼鏡をかけた――共和国の医療なら簡単に視力を回復させられるのでファッションでしょう――アールヴの女性です。この種族は寿命近くになっても容姿がほとんど変化しないので若く見えますが、実年齢は九百歳を過ぎているそうです。一生を知恵の神への信仰と学問を究めることに捧げられ、その知識量は大神殿のメインバンクに匹敵しIQは四百近いと言われており、足の指まで用いても数えきれない数の博士号を持ち、中央大学の副学長も兼務されています。
「ルックさん、お願いします」
僕の背後に控えていたルックさんが進み出て、グローブのように太い指からは想像できないほど細やかな手つきで箱から杖を取り出して、捧げるように両手で差し出しました。
差し出された杖が神の力で宙空に浮遊します。
「ほう……」
蛮族の殺戮への渇望より強い知識欲と好奇心をお持ちと噂される最高司祭殿は、杖に興味を持たれたようで目を細めて杖を眺められていました。
「最高司祭殿っ」
放っておくと杖を自室に持って行って研究を始めかねない雰囲気の最高司祭殿を、プリトマートが少し険のある声で促しました。
「……っ。えー、おほん!」
我に返った最高司祭殿は罰の悪さをごまかすためかわざとらしい咳払いをひとつすると、数歩うしろへ下がりました。
彼女は双眸を閉じ顔を天へ向けるとなにかを抱擁するように、事実知恵の神を抱擁するために両手を広げます。
「ツゥアハー・デ・ダナーンの神々の中でもっとも賢き者、すべてを識る者、あらゆる学問と研究者の守護神、偉大なる知恵の神トトリスメギストスよ……」
詠唱が進むにつれ最高司祭殿の魔力とオラティオは高まり、床に触れていた銀髪が天へ逆立ちました。
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