第26話 PHASE3 生命の巫女 OUTLAW SIDE9 & KNIGHT SIDE 9
OUTLOW SIDE 9
ダミエッタ
「ヤブが!」
宙に浮かぶ医療ドロイドを殴るために、持ち上げた拳をオレはこいつをぶち壊したらゾーイの治療に支障が出ると気付き、危ういところで止めた。
ここは宇宙船アレイファルコン内の
それをもってしてもゾーイの病状は改善しなかった。あれから三日経ったが未だ眼前の(
フレッド、いや、アンと戦ったあとオレとダニーはその足でゾーイを、第三大陸中央宇宙港に停留している
ゾーイを挟んでオレの反対側に座っているダニーも、難しい表情で妹に視線を注いでおり、ゲジゲジ眉は八の字を形作っている。脱帽しているがこれはなんでも相談しろという意思表示だ。
「……検査の結果は
オレもその意見に異存はない。ぶつかった
「アンに跳びかかった時点で杖の影響で錯乱してたってことか」
オレを見上げたダニーの目はあきらかに「彼はおまえの
(そういえばオレも
本来ならすでに探索を終えて自宅へ帰っているはずなんだ。クラスメイトや先生にどう言い訳するか……。
そこで脳裏にアンの姿が浮かび顔をしかめる。
(ゾーイをなんとかしなきゃ学校もなにもねぇ。そのへんのことはあとで考えよう)
気持ちを切り替えて改めて眠り続ける妹を見やる。
「この宇宙船の設備ではさすがに
……普通の惑星では学院と神殿は市井にも広く門戸を開いており、クレジットさえ払えば――(公的)保険も効く――誰でも措置を受けられるが、最前線のダミエッタ星では神官の97%は軍属で、民間人は――ましてや他星人は――容易に治療を受けられない。
口の中に苦いものが広がり、右の爪先で床を蹴る。
それにしても……、
「オレ達の中でこいつだけが
ダニーの片眉がかすかに上がり、妹を見やっていた目を細める。
「遺跡に入ったときから、いや、この星系に到着した瞬間からゾーイはどこかおかしかった」
「その時点で影響を受けていたってことか……。アン達にも、プリトマートにもその様子はなかった」
つまり”女”が影響を受けるのではなく、ゾーイが特別だということだ。
「…………」
”家族”である妹が普段とは違う存在に見えた。
ダニーへ視線を向けると意図を理解してくれたようで、彼は肩を竦めた。
「……あまり気持ちのいい話ではないぞ」
ダニーは一度退室すると言葉を滑らかにするために、酒の小瓶とコップを二つ持ってきた。昏睡している妹の傍で酒を飲むのは気が引けたので、医療ルームの少し離れた場所で、(壁と一体型の)テーブルを挟んで座ると、ダニーが無言で彼とオレの前にコップを置き、酒を注いだ。
机上で照明を反射してキラキラ光っている琥珀色の酒を、しばし無言で眺めていたダニーがゆっくりと口を開く。
「……七年前だ。オレとおまえの親父さんは
そこでダニーは天井を見上げ彼方を眺める視線になり、目を細めた。
「……オレ達は記録映像でしか見たことのない、神話の時代のザナドゥエデンによく似た蒼い……、美しい星だった」
興味深い話だがいま重要なのはそこではないので、無言で続きを促す。
「オレと親父さんはチキュウ中を
一端言葉を切りダニーが顔をしかめ、右拳を握り込む。
「俺達がレストランを出ると前の路で白人の警官が、八歳ぐらいの黒人の少女の喉を膝で圧迫していた。このままじゃ女の子が殺されるのはあきらかなのに、通行人は口で制止しているだけで、誰も実力行使しようとしない。激怒した親父さんが警官どもを叩きのめして女の子を助けた。それがゾーイだった」
ムカつく話に胸もむかつきオレは酒を煽る。
「ゾーイは
……あいつはそんな素振りはまったく見せず、いつも明朗活発に振舞っていた。
「だが、それでは……」
「……彼女は両親のことはなにも覚えていなかったが本当の名前は覚えていた。ゾーイ・エデン・ブルースフィア……。現地ではブルースフィアはチキュウ自体を示すそうだ。親からとても誇り高い名だから、絶対忘れるなと言われたと言っていた」
「…………!」
しかめ面でダニーも一口酒を飲み、机上に置いたグラスを眺めた。
「……チキュウでツウアハー・デ・ダナーンの神々が最初に
いままで恒星系形成前の星間ガスと岩塊のように曖昧模糊でバラバラだったものが、惑星が形成されるように寄り集まり、輪郭が整う。
視線を向けたさきで眠り続けている妹が、神の怒りを鎮めるために捧げられる贄の少女のように見える。
「ゾーイを助けるには
拳を固く握りしめ勢いよく立ち上がった。
「いいのか? すでに杖をダミエッタ政府が確保している以上、それを奪えばトレジャーハンティングではなく窃盗になる。
「……っ。奪うとしても一時的に借りるだけだ! 盗むわけじゃねぇ!」
かなりの抵抗を感じているものの妹のためにそれを糊塗して、なんとか自分と折り合いをつけた。
準アーティファクトのレリクスとなると、あいつの知恵を借りるしかねぇな。
KNIGHTSIDE 9
ダミエッタ星第一大陸首都中央総合研究所
謎の
ルックさんは宝捜し達を追及するべきではないかと主張しましたが、僕とプリトマートがそこまでする必要はないという意見なので、それはしていません。
その日から三日経過し現在僕達三人は研究所の応接室にいます。ソファなどの家具は安物ではありませんが高級でもなく、絵画や彫刻などの装飾品はすべて実物ではなく
いま僕とルックさんが飲んでいる黒いお茶も、プリトマートの口にしている紅い透明度の高いお茶もすべて合成食材です。
中身を飲み終えたコップをテーブルに置くと、僕は天を仰ぎ溜息を尽きました。三日間科学と魔法の両面から徹底的な調査が行われましたが、わかったことはあの杖は共和国以前に神々が直々にお創りなった準アーティファクトで、とてつもない力を秘めているということだけで、起動方法はまったくわかっていません。それではレリクスもただの杖です。
「…………」
遺跡で戦った宝捜しの少女はレリクスを操っていたようでした。彼女なら使えるのかもしれません。女性なら誰でもというわけではないことは、すでにプリトマートや女性魔導士が試してわかっています。
(……
不思議と遺跡で戦った宝捜し達――特にリーダーらしい黒髪
……それに彼には友人のような親しみを感じるのです。
もやもやした胸をごまかすために――これも合成食材の――クッキーとスコーンへ手を伸ばします。
ふいにテーブルを挟んだ対面で自分の通信端末でニュースを観ていた、姉の表情が変わりました。
「
胆力のある彼女も表情が強張り、一気に室内の空気が張り詰めます。
四日前カンザスとシャビィタウンに一隻ずつ
プリトマートとルックさんと見合わせた僕の顔も緊張しているでしょう。
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