オレ、宝捜し(トレジャーハンター)。僕、騎士。立場も性格も両極端だけで協力して蛮族を倒します
第25話 PHASE2 邂逅《エンカウント》 交わる路《クロスロード》 OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE 8-④
第25話 PHASE2 邂逅《エンカウント》 交わる路《クロスロード》 OUTLAW SIDE & KNIGHT SIDE 8-④
戦闘はいつしかジュウザとアン、ゾーイとプリトマート、ダニーとルックに移行していた。
光が爆発とともに床に降り立ちジュウザとアンに形を変える。級友同士は片方はそれを知らず対峙した。
「…………っ」
忸怩たる思いのジュウザが苦い表情で唇を噛む。
「やはりこの戦闘は貴方の本意ではないのですね?」
「…………っ」
友からかけられた言葉に若き宝捜しの頬がかすかに緩む。
だが、視界の端に妹が女救星拳騎士の蹴りで、血を吐く姿が映りすぐに引き締まる。
「おまえには関係ねぇ」
「貴方はあのとき一時的にかもしれませんが、
ジュウザが答えようとした瞬間、ゾーイがプリトマートの必殺技で壁に叩きつけられた。左腕は肘から異常な角度に曲がっている。少女を中心に壁面に蜘蛛の巣状に亀裂が走る。
妹の苦悶の表情と吐血を見てジュウザの意識が再び沸騰。
「
ジュウザの背後に一丁の
六発の光速拳が灼熱の炎弾と化して女救星拳騎士を直撃!
しなやかな肢体に拳痕が穿たれ爆炎に包まれる。爆圧と衝撃で今度はプリトマートが石壁に叩きつけられた。
それを見たアンの緋眼がさらに紅く染まり、頭髪が逆立つ。
「姉さん!」
「っ。だ、大丈夫だ」
プリトマートは口内に溜まった血を吐き捨てると、拳で唇の血を拭い、壁から身体を引き抜き床に着地した。
遺跡の罠からは彼女を護り抜いた防護服も、ジュウザの必殺拳には耐えられずあちこちが破けている。破れ目から見える新雪の白さと絹の滑らかさを持つ肌は、火傷で赤く爛れている。
「…………っ!」
はじめてアンが明確な敵意を込めてジュウザを睨む。
「……たとえ貴方にどんな事情があるにせよ……、僕の”家族”を傷つける者は許しません!」
ジュウザに向かって構えを取ったアンの怒りと戦意を表して、オーラが噴き出す。
一瞬ジュウザの唇が開きかけたものの、妹に重傷を負わせたとはいえプリトマートを傷つけた彼には、弁明する資格はないと判断したのだろう。思いっきり床に唾を吐くとアンに対して拳を構えた。ジュウザの身体からもオーラが放たれる。
両者の紅い瞳には互いの姿が映っている。
二人の視線が中間でぶつかり火花を散らす。
ジュウザとアンの間の空気が張り詰め、両者は相手の髪一筋の動きも見逃すまいと、互いを凝視している。
他の四人の戦闘の余波で一本の円柱が地響きを立てて倒れる。
それが戦闘開始の合図であったかのように、二人が同時に射たれた
……ついに友人同士が片方はそうと知らず拳を交えるのだ。
速度がまったく同じであったため、二人は互いの立っていた位置の中間で激突。
拳、手刀、肘、蹴り。牽制、陽動、本命。
二人の少年の四肢が閃光と化す。瞬きよりも短い刹那に光速で交わされる攻防。両者の周囲で大気が連鎖的に爆発する。
同時に飛び退くジュウザとアン。
両者は一瞬前まで彼らが立っていた位置に戻った。
「「…………」」
どちらも胸中は複雑だが相手の実力は認めたらしい。
二人の眼が細かに動き、瞳が小刻みに明滅。互いに隙を探し、相手の次の動きを予測し、展開を
「っ」
次の攻撃が決まったらしく両者の目が同時に座った。
オラティオを燃やし二人の少年が同時に右拳を引く。二人の動きは鏡写しのように似ていた。
「「
同じタイミングで撃ち出される光速の右
流星の如き拳圧が激突し、そのまま押し合う。
ジュウザとアンはそれを座視せず一歩一歩相手に進んで行く。
それによって空中でくすぶっていた拳圧は、押し込まれ球形から扁平に変わっていく。
「うおおぉっ!」「はあぁっ!」
互いの拳が直接ぶつかったことで、拳圧の圧迫は臨界を越え爆発。爆風の威力で床と壁に亀裂が入る。それでも二人とも踏み止まった。
「「
両者の左拳がブーメランのように弧を描き激突。余波で壁が大きく切り裂かれる。
ジュウザとアンの左拳と腕がせめぎ合い軋み合う。二人とも左拳へ視線を注いでいたが、ふいになにかに気付いたかのように相手の顔を見やる。
「「
跳ね上がる右拳。半ば不意打ちだったので、どちらも避けきれる顎を直撃。
二人は互いの
一瞬は意識が跳んだのかもしれないが、両者は空中で姿勢を整え、両脚で石畳に降り立つ。
「「…………っ」」
ジュウザは拳でアンは人差し指で唇から流れた血を拭う。二人の紅い瞳に困惑が浮かぶ。いくら
二人の耳朶を高く澄んだ気合の声と、野太い怒号が打つ。視界の端に仲間の戦いを捉えた。
どちらもリーダーで最大戦力である自分が、戦況を打開しなければと思ったのだろう。二人は疑念を振り切りをさらにオラテイオを高める。
「爆炎螺撃弾!!」
再びジュウザの背後に回転式拳銃を構えた山賊が浮かび、六発の炎丸が射ち出される。
「
アンの背後が宇宙に転じ星が煌き、星々は無数の光条と化して疾り、漆黒を幾何学模様に切り裂く。
炎弾と光条が激突!
互いを爆散していく。
唯一破壊を免れた炎弾がアンへ、光条がジュウザへ届くが、彼らはそれを左腕で振り払った。
両者が同時に唇を噛む。必殺技をもってしても有効打を与えられなかった焦燥だろう。
「っ」
相手を倒すには最大の必殺技を叩き込むしかないと思ったらしい。だが、それを使えば相手の命を奪いかねない。さすがに二人とも殺人は躊躇しているようだ。四つの紅い瞳をさまざまな彩が通り過ぎていく。
「…………っ!」
意を決したらしくジュウザとアンの表情がこれまでになく厳しくなる。やはり”家族”の方が大切なのか、これほど”強い”拳戦士なら最大奥義をぶつけても死なないという、互いへの奇妙な信頼もゆえなのか。
相手を見据えたままジュウザとアンのオラティオが加速度的に増大していく。激しいオーラの噴出によって突風が巻き起こる。”力”の余波だけで内壁が破損、破片が宙に浮かぶ。
両者の間の緊張が極限に達する。あと数秒で巨大な宇宙揚陸艦《ランディングガンシップ
》すら、一撃で破壊する奥義が激突するのだ。
しかし――
プリトマートの攻撃を受けたゾーイが、杖に叩きつけられた。
その衝撃でレリクスは奥の壁まで吹き飛び、褐色の少女は勢いが殺されたことで、それまで杖が刺さっていた場所に尻から落ちる。
その場の誰も気づいていなかったが、ゾーイと接触した刹那、杖に刻まれたすべての文字が異様な銀光を放っていた。
「ゾーイ!?」
仰向けに倒れた褐色の少女が能面の如き無表情のままカッと双眸を見開く。
まるで見えない糸に引き上げられたように、少女がゆらりと立ち上がる。彼女の身体からはオーラが立ち昇っているが、その色はさきほどまでは違い銀だ。
ゾーイから尋常ならざる気配を感じたらしく、室内の全員が戦闘を中断して彼女を見やる。
「ぞっ、ゾーイ?」
「…………」
無表情なまま少女が杖へ掌底を向けると、強力な磁石に引きつけられたように、レリクスが掌に飛び込む。
杖を握りしめた瞬間少女がかすかに微笑む。
だが、すぐに無表情に戻りレリクスを三人の拳騎士に向ける。
刻まれた文字が銀色に輝くと同時に、三人の姿が歪む。彼らの周囲の物品も同時にひしゃげているので、空間そのものが歪曲されているようだ。
「うっ、うわあぁぁっ!?」
根源的な恐怖を感じたらしく強靭な精神力と並外れた豪胆さを持つはずの、三人の拳騎士が絶叫した。
「やめろ! 殺すことはない!」
兄の制止を無視して褐色の少女が、アン達に向けた杖を握り込む。
だが、それと同時に杖が手から弾け飛ぶ。
レリクスが少女の手を離れると同時に、石を投じられて乱れた水面が平坦に戻るように、三人の拳騎士の姿は正常に戻った。
彼女の周りだけ重力が消失したようにゾーイの身体がふわりと宙に浮かび、五体が銀色に明滅し、次の瞬間全身が陸に打ち上げられた白魚のように激しく痙攣した。完全に白目を剥き、可憐な顔も
「あああぁぁーーっ!!」
一度背骨が折れんほど深く身体を仰け反らせると、褐色の少女は糸の切られた
「ゾーイ!」
弾かれたようにジュウザが妹に駆け寄った。
アン、プリトマート、ルックは蒼白な顔色で冷や汗を拭っており、彼を制止する余裕はない。
「ゾーイ!」
その間に妹を助け起こしたジュウザは顔色を変えた。
激しい動きと興奮で紅潮していた褐色の肌は、まるで重病人のように青白くなっており高熱を発しているのだ。
脈を心音を瞳孔をチェックすると、最初の二つは注意しない聞き逃すほど弱々しく、瞳孔は明らかに開いている。
「しっかりしろ! ゾーイ! ゾーイ!」
心臓マッサージを行い頬を打ち、オラティオを注ぎ込む。
手を尽くしたが少女に変化は見られない。
「っ」
ジュウザは
「撤退だ!」
断腸の決断であることは血を吐くような声音であきらかだ。
ダニーが両腕を広げてアンやプリトマートを抑え――そんなことをしなくても彼らに妨害の意思はなさそうだが、念のためだろう――、ゾーイを抱いたジュウザがその背後を駆け抜ける。
ルックはかすかに拳を震わせたものの、それ以上なにもしなかった。
最後まで三人の救星拳騎士を目で牽制しつつ、ダニーも走り去った。
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