第19話 PHASE2 邂逅《エンカウント》交わる路《クロスロード》 KNIGHT SIDE6-③
飛翔は中位以上の拳戦士が使える技でオラティオの力で空を飛べます。僕のような上級者なら戦闘機を凌ぐ敏捷な機動も可能です。
攻撃が機体まで届かず弾かれる。空中に生まれるに
(やはり戦闘機のシールドは強力だな)
いかに帝国の科学が産んだ特殊鋼が強力とはいえ、軽量化のために戦闘機の装甲は薄い。戦闘機は宇宙など主に地上で用いられる戦車よりさらに過酷な環境で運用される。ゆえに地上兵器よりも強固なシールドで機体を保護しているのだ。
「撃圧肘壊!」
肘から戦闘機へ突貫。本来は地上を疾りその勢いと身体能力で肘を押し込む技だが、飛翔による機動で代用。
一瞬火花が生じたが肘撃はシールドを貫通。戦闘機を粉砕。
突然の乱入に蛮族軍に動揺が走る。
その隙を逃さずダミエッタ軍の戦闘機が、蛮族軍の戦闘機を二機撃破した。
「っ」
気配を察知して延髄が疼く。三発の追尾ミサイルが炎の
フリッカージャブで拳圧を三発放つ。
それぞれがミサイルに命中。
ミサイルにシールドはないので一溜りもなく爆発。
ヒューという風切り音とともに僕の身体に影が落ちる。見上げると二機の戦闘機に頭上を取られていた。
二機の熱線砲と
僕が身構えると同時にレーザーソードのように鋭い真空刃と、鉄鋼弾のような拳圧が二機を撃墜した。
下方で飛翔によって空中に立ったプリトマートが右の手刀を振り下ろし、ルックさんが左の掌底を突き出している。姉は疾空刃断をルックさんは直撃射拳を放ったのだろう。
「姉さん! ルックさん!」
「おまえに協力すると約定したからな!」
「王子! なにがあろうとお守りしますぞ!」
姉は彼女にしては稀な普通の十八歳の少女のような快活な笑顔を浮かべていた。
「空中戦は私の方が得意だ。おまえルックと一緒には地上の敵を片づけろ!」
蛮族軍の戦闘機を睨んだまま姉が爪の美しい繊指で地上を指差す。
「わかった!」
地上へ向かって飛翔。背後にルックさんの気配を感じる。
耳元で空気が轟轟となり、吹きつける風で前髪がオールバックになり、地上の戦場が急速に迫ってくる。
その中で一際目を引くのは二台の巨大な蛮族軍の
「
飛翔の機動に降下の勢いを乗せて爪先から突っ込む。
戦闘機よりさらに強力なシールドを展開していた大型浮遊戦車を一撃で貫通。
古の時代の騎馬突撃を思わせる威力と貫通力からつけられた名は伊達ではない。
「っ」
勢いあまり爪先が大地に突き刺さってしまう。
身体を屈め両掌で地面を打ち、その反動で脚を抜き、さらに大きくバック宙して大地に降り立つ。
爆発音が耳を掠め、炎に肌と髪を炙られる。
視線を向けると攻撃した戦車が爆発していた。もともと魔獣を模したデザインだったので、その姿は崩れ落ちる魔獣そのもの。
「王子!」
着地していたルックさんが尻尾を跳ねさせて駆け寄ってくる。
「ルックさん、
「しかし、金剛攻遮楯で覆うと内側からも攻撃できませんが」
照れ隠しに視線を逸らし人差し指で頬を掻きながら、悪戯に誘う子供の笑みを浮かべる。
「僕達がすべて倒せば問題ないじゃないですか」
ルックさんは一瞬キョトンとしたもののすぐに胸を反らして豪放に笑う。
「おっしゃるとおりですな!」
ルックさんはダミエッタの地上軍が布陣している地点の前方に駆けこむと、傲然と蛮族軍に向かって仁王立ちする。
オラティオが燃焼されることによって、彼の茶色い皮革が熱せられたように紅く輝く。
「金剛攻遮楯!」
天に向かって両手を掲げたドラゴノイドを中心に、左右百メートル高さ数十メートルに渡って景色が塗り替わり、一部の隙もなく布陣した太古の時代の
金剛攻遮楯の防御壁が存在する地点の表裏で、両軍の射った光線や熱線が遮られ、空中に無数の
突然発生したあまりに異常な現象に、驚愕した両軍が凍りつく。
「フフッ」
予想していたとはいえ悪戯が成功したようで、不謹慎だけど笑ってしまう。
とはいえいつまで笑ってはいられない。この
「っ」
一瞬彼らに殺された人々の復讐に嬲ろうかと思ったが、それでは蛮族と同じなので、苦痛と恐怖を与えず一撃で倒すことにした。
「
オラティオを凝固させて光の
それを交差させた掌から蛮族軍の地上兵器へ射つ。
光の礫は散弾のように広範囲へ広がる。
礫弾の命中した戦車はそれによってそこを抉られた。まるでアイスクリームが不可視のディッシャーで抉られていくように、車体を削られ動力炉を破壊された時点で爆発した。
僕の必殺技で五、六台の地上兵器が破壊された。
ダミエッタ軍に強力な拳戦士が加勢に現れたことを悟ったらしく、残存する蛮族軍の地上兵器が、もう一台の大型浮遊戦車を中心に密集していく。
(あれは!?)
集結した蛮族軍の地上兵器が一斉に前面にシールドを展開させたので、その部分の風景は半透明の白い膜が被さったように見える。
「散裂礫光閃!」
光の散弾を放ったものの幾重にも重なったシールドを貫けず、はね返された。
(っ。さすが上級蛮族の部隊。対応が迅速で的確だ)
七、八台の歩行戦車と浮遊戦車の砲口がすべて僕に向けられる。エネルギーの充填が終わり次第、シールドを解除して斉射する気だろう。
(そうはさせない!)
散烈礫光閃を繰り出すときよりさらにオラティオを高め右腕を振り被る。掌の中に光が集約し、物質化し輝く
「
僕の背後に槍を投じようとしている太古の
投ぜられた
連続して光槍戦撃を放ち続ける。
光槍戦撃を受けた地上兵器がまるで芝居の演出のように左から順に爆発していく。
これで地上の機械化部隊は一掃した。戦場のダミエッタ兵から歓声が湧く。ルックさんも金剛攻遮楯を維持すために集中したままだが、僕に敬礼――彼は僕や姉に対しては恐れ多いとサムズアップは決してしない――した。
どちらにするか一瞬迷ったものの敬礼には敬礼だろうと思い、ルックさんに敬礼を返す。
「っ」
一機の蛮族軍の戦闘機が沖合に落下して爆発した。
見上げると上空ではいまだ空中戦が続いている。いつの間にか蛮族軍の戦闘機はプリトマートが相手をして、カンザスの戦闘機は爆撃機と戦うという役割分担ができているようだ。爆撃機の役目は基本的に地上への爆弾を投下することで、戦闘機との空中戦は不得手なので、次々と射ち落とされていく。
かなり距離があるが姉の声が風に乗って聞こえる。
「
オラティオを凝固させた薔薇の棘型――オラティオで創られるものには使用者の
無数の貫通痕を穿たれ炎の花に変わる三機の戦闘機。
これで戦闘機は全滅し残っているのは三機の
空中に仁王立ちしたプリトマートから月光のように白いオーラが立ち上り、背後に夜空と半月が浮かぶ。
「
半月のように大きく弧を描き、しなやかにしなるように繰り出される光速の蹴り。柔軟な股間と膝の関節を活かし蹴りの軌道と角度は変幻自在。姉の右足の付け根を起点に閃光が幾何学模様を描く。
閃光が数十本の鞭と化して大型爆撃機を打ちすえる。
これには耐えられず機体は爆発した。
「っ」
機体が四散する寸前に脱出したガルーダ達を姉は容赦なく殺しており、紅い雨が紺碧の海面に降り注ぐ。
「…………」
いくら蛮族帝国との間には投降と捕虜の扱いに関する条約がないとはいえ、彼らは大勢の人族の命を奪っているとはいえ、複雑な気分だ。
空中の敵を全滅させたプリトマートが、白鳥が湖面に舞い降りるように華麗に、僕の
「大事ないようだな」
すばやく僕の頭頂から爪先まで視線を走らせた彼女は、安堵ゆえ破顔した。
「あとは
一キロ以上先に蛮族軍の揚陸艦が鎮座しており、その偉容は邪神の神殿を護る太古の巨竜を連想させた。
残存するダミエッタ軍の戦闘機と戦車が攻撃を加えているが、さしたるダメージは与えられていないようだ。
「いつまた主砲が発射されるかわからない。やっぱり僕達がやるしかないよ」
プリトマートが不敵な笑みを浮かべ頷き、無言で僕の隣に並ぶ。
僕と姉は競い合うようにこれまで以上にオラティオを燃焼させた。放たれるオーラ越しに見える揚陸艦からは威圧感が消え、愚鈍で露悪な
「いくぞ!」
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