第5話 PHASE1 二人の少年 OUTLAW SIDE2-② KNIGHT SIDE2-①

 漆黒の宇宙を背景バック蒼玉サファイヤのように美しい蒼い星が浮かんでいる。映像は紺碧の空と碧に溢れた大地に変わった。そこでは鳥、獣、虫、魚、植物あらゆる生物が生命の煌きを放っている。記録が残っていないほど太古の共和国首都惑星リパブリックキャピタルプラネットザナドゥエデンの姿だ。

 ……いまは痕跡さえ留めていないがな。

 再び画像は宇宙に戻りザナドゥエデンの背後に、白い僧衣を纏った金髪で長髪の美しい青年が立っている。目を引くのは両の眉で途中から二股に割れ、上は下と垂直に立っていた。青年が右手に持った王錫から惑星に光を放つ。

 光は落雷のように地上に激突し、閃光と土埃の収まったあと、そこには一組の少年と少女が立っていた。

〈トゥアハー・デ・ダナーンの主神オデュゼィン様は人族ヒューマンの始祖として、ザナドゥエデンに人間イノセントの少年と少女を一人ずつお創りになられました〉

 夫婦となった二人から指数関数的に人間が増えていく。他の星でもまったく同じ事象が起こっている様子が描かれる。

〈人間は銀河系内の他の惑星でも次々と誕生しましたが、DNAパターンと生体はザナドゥエデンの人間とまったく同一です。いかに環境が酷似しているとはいえ数百光年を隔てた星で誕生した、生命体のDNA構造が同じなど科学的常識では考えられません。しかし、そこになんの不思議もないのです。神々がそのように意図されたからです。……なおこれはあくまでも象徴的なイメージであり、実際にはどの惑星でも微生物から進化して人間は誕生しました〉

 一人の女生徒が眉間に皺を寄せる。たしかあいつの両親は神官で信仰心が篤かったな。

 そのあと原始的な貫頭衣を着た男女のけんが空を引き裂き、蹴りが大地を割る姿が映し出される。彼らは自身の十倍以上の巨躯の獣をこぶしの一撃で屠り、その獣でも動かせないような巨大な石材を軽々と抱えて運び、神殿を建てていた。

〈人間の筋力と身体強度は構成している物質と、それによって行われる化学反応によって決定し、物理的には限界があります。しかし、体内の霊的エネルギー”オラティオ”を燃焼させることで限界をはるかに超え、光速にまで達することがことが可能なのです。最初期の文明はオラティオを根幹として築かれました。現代ではこうした超常の力オラティオを持って戦う戦士のことは拳戦士フィスターと呼称されています〉

 自らの肉体そのものが宇宙戦艦バトルクルーザーなみの戦闘力を備えた”武器”ならばこれ以上心強いことはないので、オレ達宝捜しトレジャーハンター賞金稼ぎバウンティハンターは大半が拳戦士だ。

 だが、超常的な力を持っていても暮らしは原始的なままで人々の表情は不満そうであり、オラティオを高めるための厳しい修行で多くの子供達が死んでいく。

〈ですが超越的な身体能力と戦闘能力を持っていること、文化的で安全で豊かな生活は直結しませんでした。ゆえに貴方方の遠い先祖は知恵を絞り文明を発達させていったのです〉

 車輪、梃子てこ、家畜の利用、火薬、蒸気機関、内燃機関、原子力、太陽光と水素、物質反物質の対消滅……、文明が進歩していく。

〈トゥアハー・デ・ダナーンの神々は他の惑星にも知的生命体をお創りなられました〉

 水と緑の星にアールヴの炎と火山の星にドヴェルグの営みが刻まれていく。

〈人間がイノセントを呼ばれている理由は神々が最初に創造した知的生命体だからであり、後発の種族はすべて人間をもとにした派生バリエーションです〉

 何人かの人間の生徒が鼻を高くしたが、別におまえらが偉いわけじゃねぇぞ。

 人間が宇宙船に乗ってザナドゥエデンを飛び立ち、星の海を渡り、他の惑星に降り立つ。

〈……永いときを経て三万年前銀河規模の共和国が建国されたのです〉

 チラと教室へ視線を走らせるとすでに生徒の三分の一が眠りに落ちており、オレもダルくなってきたので、椅子を浮かせて頭のうしろで両腕を組む。

〈銀河の惑星は文明の発達段階レベルによって後進惑星アンダーヴェネロペット発展途上星デヴェロッピング先進星デヴェロペットに分類されます。先進星の条件は超光速航法と重力制技術の確立、途上星は原子力と飛行機械の確立、後進星はそれ以下です〉

 再び銀河を背景バックにオデュゼィンが長い金髪を靡かせる。

〈共和国では神々の存在は公式オフィシャルに認められており、神が数十年に渡って人族とともに暮らした記録も残っています。しかし、途上星以下では神々やオラティオなど科学を超越した存在や能力は、神話や伝承、オカルトとされています。神々が存在をあきらかにしておられないからです。神々が直接対話を持たれるのは先進星で、かつオラティオを行使できる人間が一定数以上いる文明だけだからです〉

 眉間に皺が寄ったのを感じる。オレはこの話を聞くといつも不快になる。神なら戦闘力や文明レベルじゃなく、住人の精神性や倫理観の高さで判断しろよ。なに、欲に塗れた宝捜しが青臭いこと言うなって? ほっとけ。

 生徒に緊張を促すため教師ドロイドが赤い光を発し、声も硬くなった。

〈……一見共和国は繁栄を極めているように思えますが、銀河規模で重大な脅威が存在します。ツゥアハー・デ・ダナン神々と敵対する邪悪なる神々アス・ヴァ・フォーモル邪神達の創造した蛮族アスヴァロスです〉

 基本的な体型や顔の造形こそ同じだが、山羊のつのや蝙蝠のような被膜の翼が生えている、あるいは目の瞳孔が爬虫類のそれと、あきらかに人族ヒューマンと異なる禍々しい凶相の生物達が映しだされる。

〈一部の蛮族は人族と同等、いえそれ以上の知能を持ち共和国に匹敵する文明を築いています。しかし、性質は総じて狂暴で好戦的であり破壊と殺戮を好みます〉

 立体映像ホログラフティの中で蛮族達は制圧した惑星で殺戮、破壊、略奪……、未成年には見せちゃいけないようなことまで、ありとあらゆる暴虐を嗤いながら行っていた。

〈共和国はツゥアハー・デ・ダナン神々のもと銀河の正義と平和を護るため、三万年に渡って蛮族と戦争を続けています〉

 宝捜しの過程で何十回も蛮族とやりあってるオレは死闘の記憶が蘇りやや緊張したが、いまだ起きているわずかな生徒は皆退屈そうだ。既知の事実であるうえあいつらの両親や祖父母、曽祖父母……、何千世代以上前から行われている戦争で三万年も膠着状態なのだ。どんなに危険で切迫した状況でも、それが日常になれば人族ヒューマンは慣れ弛緩し――そうじゃなきゃ精神が壊れちまう――、危機感や脅威を感じられなくなるのである。まして首都星系は最前線から数千光年離れており、平和と繁栄を謳歌しているので、そこに暮らす人間が緊張感を持続できるわけがない。

〈現在の蛮族帝国アスヴァロスエンパイアの皇帝は一万年もの間帝国を支配するアマデウスです。ドミネーターは皆紅い瞳ですが、彼は特に紅く鮮血そのものの瞳を持つゆえ極緋眼ごくひがんの皇帝と呼ばれています〉

 立場が違うとはいえ他の奴らが平然としてるのにオレだけ緊張してるのは、ヘタレてるようで癪なので、肩の力を抜きさらに深く椅子に背を預け大きく伸びをする。

 なんの気なしに視線を教室中に走らせると、視界の端にフレッドの姿が入った。

(あいつまさか)

 常に五十センチの直定規ストレイトエッジを入れたように背筋を伸ばしてるフレッドの身体が丸まり、定期的に頭も上下してる。

(寝てんのかよ。ちっ、しかたねぇな)

 鞄から予備の電子ペンを取り出して、手首のスナップを効かせてフレッドへ投じる。

 狙い違わず彼の頭頂に命中してペンが床にコトンと落ちた。

 その衝撃でフレッドは目が覚めたようだが状況を理解できないらしく、怪訝な表情で周囲を見渡してる。

 オレと視線が合う。

 オレの表情を見て顛末を察したようで照れ臭そうに頭を掻きながら、もう一方の手をオレに向かって立て感謝を示した。

 無視するのもなんなのでオレも親指を立てやる。

 そうこうしているうちに一時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。






 KNIHGTSIDE 2

 共和国標準時ザナドゥエデンスタンダードタイム 共和国暦RD30052年4月15日AM8:24

 共和国首都星系第五惑星第三衛生星都第二高校キャプタルスターシステムフィフスプラネットサードサテライドセカンドハイスクール校門前


 おはようございます。アンフォアギヴン・ミクシード・レオハロードです。

 僕はいま在学している高校の校門に前に立っています。幼少時から父上が集中教育を施してくれたので大学は二年前に卒業しているのですが、社会勉強のためとなにより一般の方と、苦楽を共にしたいので通わせてもらっています。

 星都第二高校は校外に位置するので視界は一面牧歌的な田園で、建物はまばらにしかありません。東側一キロさきは都市部で超高層ビル群が白銀の光を放っていますが、西側は小さめの湖で、南数キロさきには山々の稜線が連なっており、春の穏やかな爽風そうふうが吹いています。

「フレッド《・・・・》、そろそろ生徒の増える時間だぞ」

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