第6話 三人目の美少女

 俺は正直、部員集めを甘く見ていた。チラシさえ貼っておけば、物好きな何人かくらいは入部してくれると思っていた。


 一日目から竹森さんと神田さんが入ってきてくれたことで、その思いはさらに強くなっていた。


 しかし、あれから何日かが経過したが、一向に入部希望者は現れない。それどころか、誰一人としてこの部屋に足を運ぼうとする様子がないのだ。他の三人は、頑張っていろいろな人に声をかけてくれているそうなのだが、いい反応を示してくれる人は一人もいないらしい。


 三人が頑張ってくれている中、俺は今何をしているのかというと……諦めて、先生のもとへ交渉に向かっていた。


(部員が四人もいるのは、俺にしては頑張ったほうだ!確かに、条件を満たすにはあと一人足りないが、頑張ったけどこれ以上は無理でした!と言えばさすがの加藤先生でも許してくれるはず!!)





「駄目だ」


 即答だった。俺は全力でもう限界アピールをしたのだが、先生は頭を縦には振らなかった。


「もうすでに、部員は四人集まったんだろ?だったらもう少し頑張ってみろ。お前のできることを全てやって、それでも無理だと思うなら、もう一度私の所へ来い。話ぐらいは聞いてやる」


 俺は「分かりました」と言い、職員室を出ようとした。すると先生は、俺が職員室から出る前にこんなことを言った。


「最後に、悩める若者に先生からヒントをやろう」

「ヒント、ですか」


 そして、先生は持っていたペンで俺の方を指した。


「ずいぶん幅広く探しているようだが、意外と近くに入部してくれる奴はいるかもしれないぞ?」


 そう言って先生は、まあ頑張りたまえと手をひらひらさせた。


(意外と近くにって、先生は誰のことを言っているんだ??)


 職員室から出た俺は、それを考えることに夢中になって、すれ違ったに全く気が付かなかった。













「失礼します」


 和樹とほぼ入れ違いで職員室に入る。彼女もまた、同じ教師と話をするため、職員室を訪れたのだった。


 場所は会議室。机を挟み、向かい合って座る教師と女子生徒。教師は、目の前に座る女子生徒を見て、この状況つい最近にもあったなと思った。


 まず、女子生徒が口を開いた。


「私は前にも言ったように、部活に入る気はありません」


 そう言って、彼女は部活動に入りたくない理由を話した。その話を聞いた教師は、先ほどと全く同じようなことを思った。


本当に似てるんだな。表の理由はほぼ同じだし、もおそらく同じだろう…まあ、やりたいことがあるだけの方がましか)


 そこで教師は、この前思いついたことを頭に浮かべ、にやりと笑った。


「しかし、学校のルールだからなあ。さすがに守ってもらわなければ困る……そこでだ。実は、この学校に新しい部活を作ろうとしている奴が居てな、丁度そいつがあと一人部員を探しているんだ。新しく作られた部活だったら、どうせ大した活動もしないだろうし今ある部活よりかはマシだろ。どうだ?悪い話ではないと思うんだが」


 教師の喋り方には、まるで詐欺師のようなうさん臭さがあったが、女子生徒は確かに悪くない話だと思い、その部活に興味を示した。


「ちなみにその部活は何部なんですか?」


 すると教師は「それは隣の席の奴に聞いてくれ」と言い、それじゃ、私は忙しいんだと女子生徒を会議室から追い出した。


 追い出された女子生徒は、どういうこと?と頭に?を浮かべていたが、明日直接聞いてみればいいかと思い、その日は学校を後にした。














 次の日の朝。俺は前と同じように机に突っ伏し、うなだれていた。昨日は一晩中先生に言われたことを考えていたのだが、結局何もわからなかったのだ。


(意外と近くにいるかもって、誰のことなんだよーー!!)


 なんとなく、俺は顔を上げて周りを見渡してみた。近くにいるということは、もしかしたら同じ教室内にいるのかもしれないと思ったからだ。


 すると、なぜか視線が隣の席に向いたところで動きが止まってしまった。そこで俺は思う。


(もしかして、木下のことか?)


「コホン」


(確かにこいつなら、まだ何の部活にも入ってなさそうだし)


「コホンっ」


(いやいやいや!さすがにそれはないか!!)


「コホンっ!」


「ん?」


 自分の世界から帰ってきた俺は、ようやく不自然な咳払いに気づいた。何故か俺と目が合っていた木下は、頬を少し赤く染め、視線をずらした。


「そんなにまじまじと見られたら、さすがに少し恥ずかしいわ」


 俺はまたやってしまったらしい。自分の世界に入ってしまったことで、無意識に木下のことを見つめていたようだ…しかし、少し見つめられた程度で照れてしまうなんて、木下にも可愛いところがあったんだな。


 俺は、全力で何か良い言い訳はないかと考えた。そこで頭に浮かんだのは、


「いやー、あの……筆箱を忘れちゃってさ!鉛筆とか、消しゴムとか、貸してくれないかなー。なんて思って!」


 我ながらひどい言い訳だ。今時、小学生でもこんなことは言わないだろう。まあでも、これで木下のことを見つめていた件は誤魔化せたはずだ。


 木下は一応それで納得したらしい。いつの間にか、いつも通りの表情に戻っていた。


「あら、そう。貸してほしいと声をかけることもできないのかしら。とんだ小心者ね。それに、毎日必ず使う筆箱を忘れるなんて、準備が不足している証拠だわ」


 筆箱を忘れただけでこんなにも皮肉が出てくるなんて、さすがとしか言いようがない。感心すらしてしまうレベルだ。


「準備不足で悪かったな。それじゃ」


 俺は席を立とうとしたが、何故か右腕に違和感を感じ立ち上がることが出来なかった。そこを見ると、俺の制服の袖を木下がきゅっと握っていた。


「貸さない…とは、言ってないのだけれど……」


 そう言って、彼女は筆箱からペンと消しゴムを出し、俺に差し出した。


(え、何?その反応!木下の優しい一面なんて初めて見たぞ??不意打ち過ぎてドキッとしてしまったじゃないか!)


「お、おう。ありがとう」


 一瞬、木下を映画部に誘ってみようかと思ったが、結局口には出さなかった。


「貴方、新しく部活を作ろうと思っているんですってね。その話、詳しく聞かせてくれないかしら」


 だから、木下の方からこんなことを言ってきたのには驚いた。


(というか、なんで木下は俺が部活を作ろうとしていることを知っているんだろう)


 いろいろ疑問に思ったが、俺は木下に映画部のことを話してみることにした。話してみると、意外と木下は真面目に聞いてくれた。







 話を聞き終えた木下は、少し考えるような仕草をして驚きの言葉を発した。


「あの、あなたが良ければなのだけど、私も映画部に入っていいかしら」


 木下の頼みを、俺が断る理由などなかった。













───────────────────────



 加藤先生の話を聞いた時点で、私はほぼ新しく作られる部活に入ることを心に決めていた。理由はいろいろあったが、と言われても否定はできない気がした。




 こうして、三人目の美少女が、映画部の五人目の部員へとなったのである。



 

 


 

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