第5話 美少女二人入部します
五時間目、古文。昼ご飯を食べ終わり、最強の睡魔に襲われる時間帯。クラスの半分以上が眠りにつく中俺は……机に突っ伏し、うなだれていた。
(え、初対面の人にはなんて話しかければいいんだっけ。おはよう?こんにちは?ごきげんよう?あれ、わかんないや)
映画部設立の条件を満たすために頑張って勧誘しようと思いはしたのだが、これまで、人との関わりをできる限り避けていた俺はコミュニケーション能力が皆無だった。
昼休みクラスメイトに近づいたはいいが、なんて話しかければいいのかわからずおろおろしていると、不審がられ何人かのクラスメイトからは、あいつヤバい奴認定されてしまった。
結果、誰にも話しかけることができずに昼休みを終えてしまい、今は途方に暮れてしまっているというわけだ。
(よくよく考えてみたら俺、木下以外のクラスメイトの名前知らねえや。名前も知らないやつに話しかけるなんて俺にはハードルが高すぎる……そうか!名前を知っている奴を勧誘すればいいんだ!!)
やはり俺は天才なのかもしれないと調子に乗ろうとしたとき、一つの重大な事実に気づいてしまった。
(俺が名前知ってるの、健斗と木下だけだわ……)
その驚愕(驚くのは俺だけなのだが)の事実に、俺は心が折れそうになった。しかし、そこである一人の女の子を思い出す。
「これからよろしくね!和樹君!」
俺の名前を呼び、可愛らしく笑う彼女。あの光景を、俺は今でも鮮明に思い出すことができる。
(竹森さんだっけ。俺のこと知ってるみたいだったし……)
誘ってみようかなと思いそうになったが辞めた。俺みたいなオタクが作った、映画部という未知の領域に、あんな美少女が足を踏み入れるはずがない。そもそも彼女のクラスを知らない。まあ、彼女ほどの美貌ならば教室の外から少し覗いただけでも見つけられそうだが、生憎俺には彼女ほどの美少女に話しかける勇気がない。
放課後。結局俺は打開策を見つけることができず、唯一の頼りである健斗に泣きついていた。
「大体経緯は分かった。問題は
さすが健斗だ。俺の話を聞いただけでほぼすべてを理解し、その上で何が一番重要なことなのかをよくわかっている。
そう、今回重要なのは映画部に入りたい人がいるかではなく、
俺が理解していないのを察してくれたのだろう。もう一度、丁寧に健斗が説明してくれた。
「つまり、今回のことについて、設立する部活が映画部であることはそれほど重要じゃないんだ。重要なのはその映画部を
「まあ、いずれ客は来なくなるよな」
「そういうことだ」
健斗はにやりと笑った。
こいつ天才だ。あの一瞬でこんなことがわかるなんて。これからは、
「それで、俺はどうしたらいいんだ?」
すると健斗は清々しい笑顔を俺に向け、右手の親指を立てる。
「つまり、お前にはどうすることもできないってことだ!」
「おいこら健斗ーーーーーーー!!!!!!!」
「やっべ!」
健斗は教室内へと逃げて行った。
ドンっ
そのとき後ろにいた誰かにぶつかったのだが、健斗は全く気付いていないようだったので俺が代わりに謝っておいた。こういうのを見ると、どうしても放っておけない性質なのだ。
「ごめん。大丈夫?」
そこで初めて、健斗がぶつかったであろう女の子と目が合った。
「大丈夫。ありがと」
(なっ!!)
俺は、この学校に入って
(この人は間違いなく
その女の子はぺこりと頭を下げて、すぐに何処かへ行ってしまった。
今日は帰るかと思い、ふと教室の中へ視線を向けると、健斗と竹森さんが二人で楽しそうに話しているのが見えた。
(竹森さん、健斗と同じクラスだったのか……健斗と竹森さん……お似合いだな)
なぜか少しだけ感じる胸の痛みに気づかないふりをして、俺はその場を後にした。
次の日の放課後、俺は旧校舎の一室にいた。ここは前まで将棋部の部室だったらしいのだが、新校舎が出来てからはもう使われなくなったらしい。とりあえず、映画部ができるまでは好きに使っていいと言われている。
好きに使っていいと言われても何もすることがないので、ただぼーっとしてだれか来るのを待つしかない。一応、映画部の部員募集というチラシを掲示板には貼ってある。結局それしか方法が思いつかなかったのだ。
(まあ、あのチラシを見て映画部に入りたいと思う奴なんかいないだろうけどな)
もうすぐ健斗が来るはずだ。そこで改めて健斗と考え直したらいいかと思った。
ガラガラガラ
「お待たせ―」
健斗の声とともに部屋の扉が開いた。俺は自然と扉のほうを向く ……すると、そこにいたのは健斗だけではなかった。
「新入部員を連れてきたぜ」
健斗がそう言うと、健斗の後ろから
「和樹君!私も映画部に入っていいかな!」
そう元気よく言った一人目の入部希望者は、来るわけがないと思っていた
しかし、驚かされたのは彼女にだけではなかった。健斗の後ろからもう一人が出てくる。もう一人の方は、少しうつむいたまま視線だけ俺の方へ向けていた。いわゆる上目遣いってやつだ。
「
この声、あの眼鏡、そしてこの雰囲気、忘れるわけがない。なんと、もう一人の入部希望者は昨日の美少女だったのだ。少し冷静になってくると、この上目遣いにやられてしまい顔を見ることができなくなったので、俺はぱっと眼を逸らした。
(何故、
やっと脳の処理が追い付いてきたところで、健斗がさらに俺を混乱させるようなことを言った。
「竹森、お前がいるから映画部に入ってきたらしいぜ。昨日お前から逃げてたらさ、いきなり竹森に和樹君と仲良いの?って言われて、あの後色々聞かれて大変だったんだからな!それに、神田は何故か昨日から映画部のことを知っててな。なんか入りたそうにしてたから連れてきた!」
健斗の言葉にさらに俺の頭は混乱した。
(竹森さんは俺がいるから入ってきた??何でだ??それに、神田さんは何で映画部のことを知ってたんだ??やばい、混乱しすぎて頭破裂しそう)
そんな感じで俺が混乱していると、竹森さんがあっ!と何かを思い出したかのように俺の方へと近づいてきた。
(いや、ちょっと近すぎないか?)
「私も名前言わなきゃだよね!」
「え、竹森さんだよね?」
無意識に俺がそう言うと竹森さんは嬉しそうに、にこーっと笑った。この顔を見て可愛くないと思う人はいないんじゃないだろうか。
「覚えててくれたんだ!!嬉しいな!!!」
最高の笑顔を見せる竹森さんを見て、俺の心臓は驚くほど高鳴っていた。
こうして、何故だかわからないが美少女が二人、映画部に入部してきたのだった。
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