第2章
第7話 美少女の決意
部員が五人になったことを報告するために、俺は職員室に来ていた。先生が出した条件をクリアしたと報告すると、先生は満足げに頷いていた。
「お前にしてはよく頑張ったじゃないか。私が出した条件を達成したことだし……よし!映画部設立を認めよう!!」
そう言って先生は、映画部と書かれた何か証明書のような紙を机の上に出した。そこには俺たち五人の名前が書かれていた……そしてもう一つ、
「顧問……加藤亜衣?」
「あー、言ってなかったか?お前が条件を達成したら、私が映画部の顧問を引き受けることにしていたんだ」
実際、次は顧問になってくれる先生を探さなければいけないと思っていたので、加藤先生が顧問を引き受けてくれるというのはとてもありがたい。
(何だかんだで、生徒のことを考えてくれる良い先生なんだよな。)
先生への報告が終わった俺は職員室から出て、靴箱で靴を履き替えていた。すると、後ろから誰かにドンと押され、俺はバランスを崩した。
後ろを振り向くと、そこには両手を突き出したままの竹森さんが居た。
「えへへ、和樹君今帰り?良かったら一緒に帰ろうよ!」
この申し出を俺が断れるはずがなく、俺と竹森さんは一緒に帰ることになった。
(女子と二人で帰るなんていつぶりだ?いや、初めてか。)
俺だけでなく、何故か竹森さんまで緊張しているようで、隣に並んでただ歩くだけという状況が少しだけ続いた。そこで先に口を開いたのは、もちろん竹森さんだった。
「映画部、無事に設立出来て良かったね!!」
そう言って笑いかける竹森さんに、俺はドキッとした。こんな美少女に笑いかけられてドキッとしない男子高校生なんていないだろう。それほどまでに、竹森さんの笑いかけてくる表情は破壊力抜群だった。
「うん、皆が入部してくれたおかげだよ」
俺は目を背けた。竹森さんとずっと目を合わせているのは、俺には少し心臓に悪すぎる。竹森さんは、俺が視線を逸らしたことに少しむっとしたが、すぐに元の表情に戻った。
そして、前から聞きたかったんだけど。と言って、そのまま言葉をつづけた。
「和樹君はさ。どうして映画部を作ろうと思ったの?」
それは当然の質問だった。そして、その答えを知っている人は少なくて……でも、不思議と竹森さんには話してもいいかなと思った。
「俺は、幼いころからずっと暇な時間があれば映画ばっかり見てた。そしてある時、ふと思ったんだ。観る側だけじゃなくて撮る側もやってみたいなって。でも、俺には友達がいなかったから、誰ともそんな話は出来なかった。それでもずっと諦められなかったんだ。馬鹿だよな。たったそれだけの理由で映画部を作ったなんて」
(これは先生にも言ってないんだけどな)
話を聞いた竹森さんは、とても優しい声で言葉を返してくれた。
「馬鹿じゃない。たったそれだけの理由でも、好きなことのためにここまで行動に移すことが出来るのはすごいことだよ。それに、和樹君のやりたいことを応援したい人は絶対いると思う。例えば……」
竹森さんは少し足を速めて俺より前に出た。そして、手を後ろに組み、振り返る。
「私とかね!!」
ニコッと笑った彼女にまたドキッとし、夕日に重なるその姿が実に魅力的だなと思った。
「いや~、すっかり暗くなっちゃったね~!」
隣を歩く竹森さんを見て、俺の中の純粋な疑問が顔を出した。
「あの…竹森さん?」
「ん?」
竹森さんが首を傾げてこちらを見る。一つ一つの動作がいちいち可愛い。
「いったい、どこまで付いてくる気で?」
そう、学校を出たのは四時過ぎ。そして、今はもう日が落ちて暗くなっている。ということは、もう六時は過ぎていると考えられる。
それなのに、竹森さんは一向に別れるそぶりを見せない。俺は途中でかなり
「え?和樹君の家まで?」
まるでその答えが当然かのように竹森さんは言った。
「えっと……家まで来るの?」
「ふむ」
頷く竹森さん。俺は、なぜ竹森さんが家まで付いて来ようとしているのが分からなくて混乱している。考えてもわからなかったので、素直に聞いてみることにした。
「何で?」
すると竹森さんは人差し指を唇に当て、少し考えるような仕草を見せた。
(あー、くそ!いちいち可愛いな!!)
「うーん、気になったから?ほら!知っておくと何か良いことがあるかもしれないし!!」
ああ。さっきの仕草は考えるふりをしただけで、実際には何も考えてはいなかったらしい。とりあえず、それなりの理由をつけて家まで付いてきたいだけのようだ。
ほんと、何故そこまでして家まで来たいのか分からない。
結局竹森さんは、その言葉通り最後まで俺に付いてきた。家の前まで来たが、竹森さんはほんとに付いてきただけで、そのまま帰るようだ。何故か俺は少し残念な気持ちになったが、最後に一つ竹森さんに聞いておきたいことがあった。
「そういえば、どうして映画部に入ってくれたの?」
その質問が予想外だったのか、竹森さんは少し戸惑っているように見えた。
「それは……」
答えようとした竹森さんは少し恥ずかしそうに俯く。そして、意を決したように前を向き、続きを言おうとした次の瞬間、
ゴォーーーーーーーー
後ろを猛スピードで車が通って行った。通り過ぎた時にはもう言い終わっていたようで、竹森さんの顔が少し赤くなっている気がした。
「ごめん、もう一回言ってくれない?」
何も聞こえなかった俺がそう言うと、竹森さんは少しホッとするような表情をしていた。そして竹森さんはべっと舌を出し、
「おっしえな~い!」
俺がぽかんとしていると、
「それじゃあまた明日!バイバイ!和樹君!!」
逃げるように竹森さんは帰って行ってしまった。
和樹君と別れて、歩きながら家の前での出来事を思い出す。
――和樹君がいるから――
ほんと、聞かれてなくて良かった。和樹君と帰れることが嬉しすぎて、ついついあんなことを言ってしまった。
それにしても、和樹君は
歩くときにさり気なく歩幅を合わせてくれたり、車道側を歩いてくれたり、そんなちょっとした気遣いが和樹君らしくて笑ってしまう。
それに、重たそうな荷物を持つおばあちゃんの荷物を家まで運んであげたり、自販機の前に落ちていた百円玉をわざわざ交番に届けたり、親切にもほどがあるでしょ!!そのせいで、20分で帰れる距離を2時間もかけて帰ってしまうんだから。
まあでも、そんな和樹君だったから……
そんな和樹君にも、一つだけ文句がある。
(私のこと覚えてないってどういうこと!?絶対また会おうねって約束したのに!!これだけ近づいても気づいてくれないなんて、なんか悔しい)
何かを決意した彼女は、もう真っ暗な空に向かって一人呟いた。
「だから、絶対思い出させてやるんだからね!!」
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