9章-5

 その時のことを思いだし、光一は顔にかっと熱が帯びるのを感じた。一週間も前の話なのに、ついさっき出来事のようにどきどきしてしまう。

「迷惑……かな?」

 そんな光一に、恵美は上目づかいで様子を窺うように尋ねた。

 光一の胸がいっそう大きく高鳴った。そんな乙女チックな仕草は反則だろうと思った。

「か、勝手にすればいいだろ!」

 たまらず光一がそう答えると、恵美はしてやったりといわんばかりに微笑んだ。

「じゃあ、行こうか。今日は帰りに駅前の本屋に寄りたいから付き合ってもらうよ」

 そう言うが早いか、恵美はさっさと歩き出す。その颯爽とした後ろ姿を光一はしばし呆然と見つめていた。

 自ら告白したくせに、いざ付き合うとなるとどうしたらよいものかわからず戸惑うばかりの光一に対し、恵美の方はやたら積極的だった。名前で呼び合おうと提案したのは恵美だったし、クラスが違うというのに昼休みの度に一緒に弁当を食べようと誘ってきたのも恵美だった。先んじて制しておかなければ、毎朝起こしに家にまでやって来かねなかっただろう。それはまるで、二人がこういう関係になることを以前から繰り返しシミュレーションしており、さっそくそれを実行に移しているかのようだった。

 そんな恵美に、光一はただただ翻弄されるばかりだった。とはいえ、それが嫌かと言われると決してそんなことはなく、むしろ嬉しかったりするのだが。

「光一、何ぐずぐずしてるのよ。早く来なさいよね」

 数メートル先から恵美が急かすように言う。

「わかってる。そんな大きな声で言わなくたって聞こえるっての」

 光一は慌てて恵美の背中を追いながら、「これが惚れた弱みってやつか……」と思ったりした。

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