9章-4
今から一週間ほど前の放課後、光一は恵美を校舎裏に呼びだした。突然何事かという戸惑いと、「人の都合も考えないで」という憤りで恵美は肩を怒らせながら指定された場所へと向かった。傍からはそれは、果たし合いにでも行こうとしているかのように見えたことだろう。
光一は先に待ち合わせ場所に来ていた。校舎の壁に寄りかかり、腕を組んで立っている。
「いったい何の用よ?」
喧嘩腰で聞いてくる恵美に対し、光一は言おうとしては思いとどまるということを幾度となく繰り返した挙げ句、意を決してひとつの言葉を口にした。
「俺たち、付き合わねぇ?」
野球部の入部の際に初めて出会った時から一目惚れしたこと。気が強くてさっぱりした性格がとても気に入ったこと。いつも口喧嘩のようになってしまったけど、それでも話ができただけでとても嬉しかったこと。ずっと告白しようと考えていたものの、キャプテンとマネージャーという関係から公私の混同はできないと、ずっとその想いを封印していたこと。野球部を引退した今なら何の憂いもなく告白できると思い、こうして呼び出したこと。――そのようなことを光一は恵美に話して聞かせた。それはまるで熱に浮かされたかのようなひたむきさだった。
ゆえに、光一は恵美の異変に気が付くのに時間がかかった。
ふと我に返って見ると、恵美は泣いていた。両手で顔を押さえ、沸き上がる衝動を抑えるように声を殺して泣いている。
光一は焦った。まさか気の強い恵美が泣き出すなんて思ってもみなかったから。自分の一方的な好意が恵美を傷つけたのではないかと気が気ではなかった。
「そ、そんなに嫌なら別にいいんだけど――」
おろおろして謝る光一に対し、恵美は顔を覆ったまま首をぶるぶると振った。
「……違うの」
嗚咽混じりの声で言う。それ以上は言葉にならないものの、光一に告白されたのが嫌で泣いているのではないのだということは必死に主張した。
結局、その日は何の結論も出せないまま二人は別れることになった。
恵美は光一の告白に返事をしたのは、それから三日後のことだった。どう返答したかは言うまでもないだろう。
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