7章-3
「どうだった?」
二十分後、レジャーシートが敷かれたベースキャンプに戻ってきた恵美は、すでに集合していた彼らに尋ねた。
「僕は浜辺を一通り見て回ったけれど見つけられなかったよ。……いや、水着美女に見取れていて気が付かなかったわけじゃなくてさ」
「オレは海の家で聞き込みをしたものの、収穫はゼロだったよ。……この焼きそばは、店員に話を聞くためにどうしても必要だったんだよ」
「もしかすると具合が悪くなって車のほうに戻っているんじゃないかと思って見てきたけど、やっぱりいなかったぜ。……別に、さぼってはいないからな」
彼らは揃って首を振った。
「そう……」頼りにならない男連中に恵美は落胆を隠さなかった。「山口君、いったいどこ行っちゃったんだろうね」
ここはたいして広くない海水浴場なので行ける場所は限られているし、遊泳禁止のためそれほど人出があるわけでもないというのに。
「どうしよう。管理事務所に行って呼び出してもらったほうがいいかな?」
恵美が思案していると、
「ん? あそこに誰がいないか?」
何気なく周囲を見回していた河合が、海岸線の向こう側を指差した。その指の先には海に面している切り立った崖があった。
「え、どこ?」
「ほら、あの崖の先のところだよ」
そう言われて見ると、たしかに崖の先端のあたりに小さな人影のようなものが確認できる。
「あれが山口君だっていうの?」
「それはわからないけど……。でも、このあたりを探しても見つからなかったんだから、その可能性はあるんじゃないかな」
「だとしても、あんなところでいったい何しているんだろう?」
恵美が首を傾げていると、
「……この海岸ってたしか、自殺の名所として有名なんじゃなかったっけ?」深刻そうに三島が言った。
「えっ、どういうこと?」
「何でも、あの崖の下あたりは流れの早い海流が渦巻いていて、飛び降りると死体が浮かんでこないそうだよ。だから、富士の樹海みたいに、人知れず自殺したい人間がよく訪れるって聞いたことがある」
「…………」
恵美は自分の顔から血の気が引くのを感じた。それって、もしかすると……。
その時、もっとも素早く最悪の事態を想定して行動を起こしたのは光一だった。
「馬鹿野郎っ!」
そう光一は吐き捨てると、真っ先に山口がいると思われる崖に向かって走っていった。
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