7章-2
「バカだ、バカすぎする……」
砂浜に敷かれたレジャーシートに座っていた恵美は大きなため息を漏らした。視線の先には、落ちていた棒きれを手に海岸線に打ち上げられたクラゲと戦闘を繰り広げている男たちの姿があった。
いくら海で泳げないからといって、憎きクラゲを異星人に見立てて宇宙戦争ゴッコなどしなくてもいいだろうに。女であるわたしにはとても理解できない世界だね。他の海水浴客も見ているというのに、あの男どもには羞恥心というものがないのだろうか。三人揃えば赤信号も、公衆の面前での馬鹿なごっこ遊びも怖くないということか。
……ん、三人?
恵美は首を傾げる。自分たちは五人で海に来て、女である自分を除くと男は四人いたはずである。なのに、目の前でクラゲと戯れている男は三人だけだ。
「ねえあなたたち、山口君を知らない?」
恵美はレジャーシートから立ち上がると、縦に一列に並んでクラゲに向かって〝ジェット何とかアタック〟を繰り出そうとしていた男連中に尋ねた。
彼らは興を削がれたようにクラゲへの攻撃をやめると、棒きれを捨てて恵美のもとに集まってきた。
「何だ、マネージャーと一緒にいたんじゃないのか?」
「ううん、違うよ。わたしはてっきり、みんなと一緒に遊んでいるんだと思っていたんだけど」
「そう言えば、さっきから姿を見ていないな」
「海の家で何か食べているんじゃないのかな?」
「まだメシを食う時間でもないんだから、それはないだろ。河合じゃあるまいに」
「何だよ。それじゃまるで、オレが常時食べ物のことばかり考えている、ありがちなデブの大食いキャラみたいじゃないか」
「実際そうだろうがよ」
「なにおーっ!」
「こらそこ、馬鹿な言い争いしないの。とにかく、心配だからみんなで山口君を探そうよ」
「わざわざそんなことしなくてもいいだろ。やつだってガキじゃないんだし、集合場所だってわかっているんだから、そのうちひょっこり戻ってくるさ」
「そうかもしれないけど……。でも、何か嫌な予感がするのよね」
「何だよ、そりゃ? だいたい、何で俺たちがそこまで山口の面倒を見てやらなきゃいけないんだよ」
「……澤崎、あんたさっきから冷たいんじゃない? そりゃあ、山口君に対して含むところがあるのはわかるけど、それじゃ彼がかわいそうだよ」
「……何だよ、含むところって?」
「だって、そうでしょ。車の中でもずっと険悪な雰囲気だったし、海で遊んでいるところに山口君がいないのも、あんたが仲間はずれにしたからなんじゃないの? あんたの気持ちはわからないでもないけど、たいがい大人げないわよ」
「俺は別に、山口のことなんか何とも思っちゃいねえつーの!」
「そういうぶっきらぼうな態度が逆に怪しいのよね」
「何だと、このぉ!」
「何よ、やるつもり!」
光一と恵美は睨み合った。マンガじゃなくても、二人の間にバチバチと派手に火花が飛び散っているだろうことは容易に想像がついた。
「まあまあ、言い争いしていても何の解決にもならないよ。とりあえず、みんなで手分けして山口を探そうじゃないか」二人を取りなすように三島が提案した。
「そうね。こんなわからず屋と話していても時間の無駄だし」納得したように恵美は言った。
「そうだな。こんなわけのわからないこと言うような女の相手をしているより、とっとと騒ぎの張本人である山口をとっ捕まえてきたほうが手っ取り早いしな」無愛想に光一は言った。
「オレもそれがいいと思うな」これで険悪な二人から離れられると、ほっとしたように河合は言った。
「じゃあ、二十分後にここに集合ってことで」
こうして彼らは方々に散っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます