5章
5章-1
部室を後にした三島は、すぐさま光一を探しに行った。彼のことが気がかりだった。
……澤崎があんなことになったのは、やっぱり新山のやつに言われたことが図星だったからなんだろうな。
新山が指摘するまでもなく、三島も光一がまだ野球に未練があるのだということには気づいていた。部活を引退したくせにグラウンドに足を運んだり、あの試合の続きを空想で再現してみたり、望まれてもいないのに後輩にノックをしてみたりと、光一の行動はそれに気づいてくださいと言っているようなものだったから。
そんな光一からしてみれば、三島を始めとする他の部員たちは、野球のことなどきれいさっぱり忘れてしまった薄情なやつらとして映っているに違いない。
だが、実際にはそんなことはないのだ。三島をはじめ、他の部員も光一と同じ気持ちなのだ。皆、野球に対してどこか未練が残ってているのだ。
みんなあの試合の後、心にぽっかりと隙間が空いたような状態になってしまった。仕方がないだろう。三年もの間、打ち込んできたものを失ってしまったのだから。その終わりが思いのほか長引いたことは、満足や納得が増すよりも、より強い未練を残す結果となったようだ。
だからこそ、彼らは野球に代わる心の隙間を埋める別の何かを必要としたのだ。それは夏期講習に参加することであったり、車の免許を取りに行くことであったり、女子の部活を覗くことであったり。……一部しょうもないものもあるが、別の事柄に打ち込むことで、彼らは多少なりとも心の整理をつけようとしたのだろう。
……澤崎のやつは、そういった代わりになるものを見つけることができずにいるんだろうな。
だからこそ野球に固執するしかなかったのだ。野球部の中で一番熱心に野球に打ち込んできた光一なら、それは当然のことだろう。
だが、彼の未練に巻き込まれるのは、後輩たちにしてみれば迷惑以外のなにものでもないだろう。自己満足のために自分たちを利用しているとしか映らなかったはずだ。だからこそ、彼らは光一を拒絶したのだ。
これまで自分がキャプテンとして君臨していた居場所さえも失った光一は、これからどこに行くつもりだろう? まさか、このまま繁華街で飲み慣れない酒をあおり、ふらふらした足取りで夜の街を徘徊し、肩がぶつかったチンピラに因縁をつけられてボコボコにされたあげく路地裏に放置され、そこから見る星空は寂しくくすんでいた……なんて展開になるとは思えないが、このままほおっておくわけにもいかない。
一刻も早く光一と合流すべく、三島は足を速めた。
そのとき、ふと三島は思った。そういえば、山口のやつは今頃どうしているんだろうな?
おそらく、今回のことで一番大きな心の傷を作ってしまったであろう山口は、それを埋めることができているのだろうか?
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