4章-4

「ったくよぉ。澤崎のやつ、いい気になりやがって」「まったくだぜ。いつまでもキャプテン気取りしやがってよ。たまんねぇよな」「もう引退した身なんだから、部活には首を突っ込まないでほしいよ。これからは僕たちの時代なんだからさ」「聞いたか? あいつ、夏の間に血を吐くほど練習して甲子園を目指せだなんて宣っていやがったぜ。無茶言うなっての」「だよな。しょせん俺たちは進学校の野球部員なんだからさ。私立の、スポーツ特待生として野球だけしているような連中にかなうわけないだろうによ」「澤崎のやつ、自分たちが運良く決勝まで行けたもんだからって調子に乗っているんじゃねえよな」

 後輩部員たちは、これでもかとばかりに光一に対する不満を口にしている。ハードな練習で死にかけているものかと思いきや、意外と元気そうである。

「だけど、もう少しで甲子園に行けたかもしれなかったのに、本当に惜しかったよなぁ」

 ある部員がそう言ったところ、すぐさま鋭い声が返ってきた。

「山口のヘタクソが悪いのさ」

 それはこれまで黙って部員たちの話を聞いていた新キャプテン・新山博久のものだった。

 新山の本来のポジションはピッチャーであるが、そこにはエースの三島隆宏がいたため、彼は二番手に甘んじていた。だが、その非凡なバッティングセンスをベンチで眠らせておくのはもったいないということで、マウンドに上がるとき以外はライトを守っていた。今大会でも背番号9番を付けていた。

 そのポジションには先輩の山口武史がいたが、新山は山口のことをライバルだとは思っていなかった。打撃も守備も、そして走塁も自分のほうが何枚も上手だと彼は信じていたし、実際にそうであったから。

 だが、大会が始まったとたんポジションを山口に奪われてしまった。理由は監督の温情としか考えられない。

 その措置に新山は憤りを覚えながらも、どうせ山口には自分の代わりなど勤まるはずがないと思い、すぐにでも出番がくるものと高をくくっていた。

 しかし、いざ大会が始まってみると、山口はまずまずの仕事をしてその地位を確固たるものとしていたし、三島も粘り強いピッチングを見せ、マウンドを譲ることがなかったので、新山は代打でしか出番がなくなってしまった。

 それでもチームは快進撃を続けていく。まるで、新山などいなくても何の問題ないかのように。そんな状況に戸惑いながらも、このまま最後までいくわけがない、きっと落とし穴が待っているはずだと新山は思っていた。

 その予感は、最後の最後で現実のものとなったのだった。

「俺が最初からレギュラーとして出ていたなら、絶対に山口以上に活躍していたはずなんだ。俺が打席立っていたならもっと大量に点を取ることができた。やつが頭上を抜かれた打球だって俺ならキャッチすることができた。それに走塁だって……。俺だったら、あんなぶざまな目には遭わなかった。――そうさ、俺が出た方が絶対によかったんだ」

 新山のあまりにマジな様子に、他の部員たちは若干引いてしまっていた。

「……そ、そうだな。それは言えてるかもな」

 その気まずい沈黙を破って誰かが言うと、他の連中もそれに同調するようにうんうんとうなずき合った。

 そして部室の中は、光一を始めとする先輩たちの悪口大会の様相を呈していった。

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