2章

2章-1

 その学校は小高い丘の上にあった。戦国時代にはちょっとした城が築かれていたそうで、今でもところどころ残っている石垣の跡が当時の面影を偲ばせている。現代を生きる生徒たちは、毎日のように長い坂をえっちらおっちら登らされることで、馬上の武将にどやされながら城へと向かった足軽たちの苦労を身をもって体感させられるわけだ。

 自転車で果敢に坂を攻めた光一は、途中から立ち漕ぎになり、最後の方は前輪をフラフラさせながらではあったものの、一度も地面に足を付けることなく登り切った。一番乗りを果たした騎馬武者さながら開け放たれた校門を勢いよく通り抜け、校内に突入した。

 学校の場所自体は創立当時から一度も動いてはいないものの、校舎は老朽化によって幾度か建て替えが行われている。建った当時、そのモダンなデザインが伝統ある我が校に相応しくないとOBたちからさんざん不評をかこった現在の校舎もすでに築三十年を越え、痛みが目立ち始めている。

 光一は校舎脇にある駐輪場へと向かった。くすんだクリーム色の柱と毒々しい緑色のトタン屋根のサイクルポートが建ち並ぶ駐輪場は、いつもは収まりきらずに外にまで自転車が溢れているのだが、今日は半分ほどしか埋まっていない。夏休みだからといえばそれまでだが、夏休みだというのにこんなに埋まっているともいえる。部活動と、そしてなにより夏期講習で学校に来ている生徒がいるためだ。

「夏休みを制する者は受験を制す」の言葉通り、高校三年生にとって夏休みは無いに等しい。ましてやここは、県下有数の進学校なのだ。三年生にはお盆期間以外はびっしりと補習の予定が組まれていた。決して参加が義務付けられているわけではないものの、進学率県下一の地位を維持したい学校側の無言の圧力と、なにより来年は笑顔で春を迎えたいという生徒自身の願望もあり、ほぼ全員が参加しているようだ。

 もっとも、

「クソ暑いのにご苦労なことだな」

 と、まるで他人事のようなことを言っている三年生もここにはいたりするわけだが。

 駐輪場に自転車を置いた光一の足は、補習が行われている校舎ではなく、その裏にあるグラウンドへと向けられた。

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