1章-3

 ……だというのに、なんでこんなにも暑いんだろう。夏はもうとっくに終わったはずだろ?

 自身の感覚と現実とのギャップに意識が追いつかないためか、それとも単に暑さのせいか、光一の頭は朦朧としてきた。

「アウトッ!」

 その甲高い宣告によって、光一は我に返った。意識が地方球場のバッターボックスから、住宅地の一角で知らない家のテレビに見入っている現在の自分へと引き戻される。

 ピッチャーが投じた膝元への鋭い変化球を引っかけてボテボテのサードゴロを打ったバッターは、必死のヘッドスライディングも実らずアウトになった。全身土まみれとなったバッターは悔しそうに地面を叩く。地方予選ならすでにコールドゲームが成立しているほど点差がついていたが、その高校生らしいガッツあふれるプレーを讃えるように観客席から拍手が起こっていた。

 そんなテレビモニターの中で繰り広げられている熱気に満ちた光景を、光一は冷ややかに眺めていた。「悔しがることができるだけまだましだよな……」と思わずにはいられなかった。

 ふと、肌を刺すような視線を感じた。それは彼が覗き込んでいた家の主人のものだった。次の回が始まる前にトイレを済ませておこうと思って腰を上げた際に、垣根の向こう側で人の家のテレビを無断視聴している不届き者の存在に気がついたようだ。

 光一の頬に、これまでとは別種の冷たい汗が流れた。彼は老人に一喝されるよりも先に自転車に飛び乗り、そそくさと立ち去った。

 背後では、光一を追い立てるようにセミの声がうるさく鳴り響いていた。

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