街中が金縛り
僕たちは、動けない。
少なくともこの一帯にいる通行人たちは、すべて動くことを否定されている。
とくに僕はスクランブル交差点の真ん中にいるという危機的な状況だ。
歩行者側の信号が赤に変わったのかさえわからない。
しかし変わっていたとしても、車の中にいる人たちもこの状況ではアクセルを踏めやしないから、多分僕はひかれないと思う。
その可能性に賭けるしかないという危機的な状況だ。
心臓が締めつけられる状況が、肌感覚で数分ぐらい続いたときだった。
「確保!」
その警官の声は、街頭ビジョンから街中に響き渡った。
ビジョンの中では、黒の詰襟のスーツに身を包んだ謎の男が、画面に向かって両手をかざしていた。彼こそが謎の催眠術で僕たちの動きを止めていた。
謎の男のもとに駆けつけた3人組の警官が取り押さえたことで、スクランブル交差点は地獄から解放された。
しかし僕は安心できなかった。
解放と同時に、車が行き交ってきたからだ。
僕はひかれまいと車を避けているうちに、横断歩道のど真ん中に立ち往生した。
左右を何だいもの車がすり抜けていく。乗用車だけでなく、トレーラーやバスなども例外ではなかった。
本当の地獄は、金縛りから解かれた先にあったのだ。
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