夜景が見えるレストラン

「見てごらん、誠(まこと)。これだけ広い夜景が見えるスポットでディナーが食べられるって、お前は幸せだろう?」

 ロウソクの炎が揺れるテーブルに照らされながら、僕の父親が言う。


「そうね。これもお父さんがサバ缶詰のメーカーの社長として、うまくいっているからね」

 僕の母親が言葉を合わせる。まるで僕が高級ディナーを食べられることが運命であるかのように、二人は誇らしげに僕を見つめていた。


「お前をそこの席に座らせているのは、とびきりの夜景を見せてあげるためだよ。とくに今日のこんな景色は、二度と見られるような代物じゃないからね」

 両親の背後に広がるのは、確かに立派な夜景だ。


 何も光がない、リアルな真っ暗闇が、東京中に広がっていた。


「今、 停電中だから何も見えないんだけど」


「だから君は今、貴重な経験をしているんだ」

 ロウソクだけに照らされた両親は、怪談話で子どもが怖がるのを嬉しがるように、クスクスと笑っていた。


「何? お金なら心配ないぞ。たった今料理ができなくなった状況だからこそ、私の会社から出た缶詰をみんな非常食として食べてくれている。世間がその価値を再認識して、またウチは売上爆増さ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る