甘い金閣寺

「ねえ、これインスタグラムに上げよう」

 瑠奈が目を輝かせてほれこむその物体は、実に立派な建造物の形をしていた。

 3階建てで、壁の大半が、癒されるような金色に輝いていた。屋根は各階とも落ち着いた黒でまとまっている。

「これが噂の金閣寺か」


 金色が強烈なアクセントを織りなすその物体は、実に荘厳な雰囲気を成していた。

「実に由緒ある輝きだね。いい社会科見学になるわ」

「ちょっと、ここがどこか分かってるの?」

 瑠奈が困惑した様子で私にツッコんできた。


「えっ?」

「ここは京都じゃないわよ。都内で今盛り上がっているスイーツショップ。この金閣寺も、ただのミニチュアのケーキよ。私の両手でほとんどを包み込めるサイズだから。黒い屋根はチョコレート、金ピカの住居部分はバウムクーヘンなんだから」

「そ、そうだよね。じゃあ早速」


 私は取りつくろうようにフォークを取って、金閣寺の住居の一部に忍ばせようとした。

「あーっ、崩しちゃだめ!」

 瑠奈が慌てて声でさえぎる。


「美由はダイエット中じゃないの? 今月中に3キロ痩せるって」

 瑠奈が無慈悲な現実を突きつける。

「あっ、そうだった」

 私は観念してフォークを引いた。濃厚な誘惑を感じるが、それ以上にモデル志望を自ら遠ざける愚行を犯す方が、屈辱的に思えた。だからこれ以上無駄な抵抗はできない。


「大体これひとつだけで2000キロカロリー近くはあるって聞いたわ。でも私はとくにダイエットの予定がないから、まるごといただきます」


 瑠奈は勝ち誇るように金閣寺の皿を自分に引き寄せ、フォークで2階の住居部分をえぐっては口に放り込んだ。

 金閣寺に似せた見た目からわずかに感じられる由緒を、瑠奈は知らない。日常のようにケーキを貪る彼女を見て、私はいびつな敗北感にさいなまれた。

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