発泡スチロール的な音のせいで目覚めが悪い
起きて1秒目から不快感がする。発砲スチロール的な奴が朝から騒いでいるからだ。
外面だけかすかに柔らかいけど芯の通った体が、スチロールの特徴。それ的なものが、僕の隣で勝手にその身をきしませたり、体の節々を弾けさせたりしている。
パン、パン、キー。
そんな音はちっともさわやかに聞こえない。少なくとも目覚めの悪い時間に、あらためて聞くような代物でもない。
僕の耳がおかしくなったのか。いつの間にこんなひどい音が聴覚にまとわりつくようになったんだ。
スチロールが裂けたり割れたりする音が容赦なく耳に響く中、僕はベッドの片隅にあったスマートフォンを取った。
午前5時59分。早い。まだ高校の支度を始める時間から程遠い。何なら朝6時からの恒例の情報番組『おめざめビジョン』が始まる直前じゃないか。
こんな時間帯に、騒ぐ奴は誰だ。
僕は思い切って周囲を見渡した。
「加奈?」
「お兄ちゃん?」
戸惑う僕の目の前には2つ下の妹である加奈がいた。彼女はなぜか、僕の部屋の入口付近の床にパソコンを置き、スーパーでおなじみのトレーをボロボロに引き裂いていた。
「あの、邪魔しないでもらえる?」
加奈は軽く非難の目を僕に向けていた。非難したいのは僕の方なのに。そこにあるスチロールを操るお前が犯人なんだから。
「何してるの?」
「ASMRの撮影」
加奈は悪びれる様子もなく答えた。
「何でわざわざそこでやってるの?」
僕は呆然としながら彼女を問いただした。
「ASMRだから、お兄ちゃんにも心地よく聞こえるかなって」
「むしろサウンドハラスメントだわ!」
僕は不満をぶつけるようにツッコんだ。
「お兄ちゃん、ひどい」
加奈はふくれっ面でトレーとパソコンを持ち、部屋から去った。
彼女を見送った僕は、これまたベッドの片隅にあったリモコンを取り、テレビを着ける。ちょうど『おめざめビジョン』が始まった。レギュラーの5人が立つスタジオが映し出され、一斉に「おはようございます」の声が流れる。
僕の推しである美人局アナの砧芽瑠奈(きぬためるな)は、左から2番目の位置。今日も清純な笑顔とともにあいさつしてくれた。
「5月5日、今日も素敵な朝を過ごしましょう」
瑠奈の元気な声が、僕の耳を癒してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます