バラの仲間
「圭太くん、バラの仲間なんだって」
クラスメートの鈴奈が、僕にささやいた。
バラとは、まぎれもないお花の一種。愛の象徴である赤く荘厳な花だ。
圭太とは、まぎれもない佐山圭太のこと。僕の親友だ。
圭太がある日急にお花になったというのか? そんなバカな話はありえない。
僕が少し考えたあとに、鈴奈に聞き返そうとしたが、そのときには彼女はもうどこかへ行っちゃった。
圭太がどうしたというのだ……。
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僕が帰り道に歩道橋を渡っていたときだった。
「おい、バラ様が言ってんだ。早く金をよこしてやれよ」
ドスの聞いた声が、歩道橋の下から聞こえてきた。そこにいた誰かを脅しているようだった。
しかもその声は、間違いなく「バラ様」と言っていた。
慌てで歩道橋の下をのぞいてみる。僕と同じ高校のブレザー系制服を着た3人が、学ランを着た少年を脅していた。3人組の1人は金髪を派手にカールさせた、姉御肌のような女子だった。もう2人は従者のように、彼女の脇を固めている。
……頭の中でそんな悠長な解説をしている場合ではない。
女子の左側に控えるソイツは、間違いなく佐山圭太! シンプルなスポーツ刈りをした、僕の親友の圭太だ!
最近僕との会話が少なくなってきて、どこかよそよそしい態度でおかしかったけど、これが原因だったのか。
狙われた学ランの少年はメガネをかけていて、3人よりひと回り小さな体格だった。その制服にも見覚えがある。ウチの高校の近くにある中学のものだ。
あわれな中学生は、半泣きの顔で財布を取り出した。すると圭太が財布を強引に取り上げる。
「はい、全部いただき~。それではバラ様、よろしくお願いします」
圭太は小悪党じみた上機嫌ぶりで、女子に財布を渡した。バラは彼女の名前だったのか。
「どうも」
バラ様はまるでこれが犯罪ではなく、儀式であるかのようなクールなたたずまいだった。
「お願い、少し残してください」
「うるせえ、バカヤロー」
バラ様は容赦なく少年を突き飛ばした。メガネの少年は倒れぎわにガードレールで後頭部を打ち、幼い子どものようにむせび泣いた。
その手前でバラ様は少年の財布の中身をチェックしているのである。
「バラ様に生意気な口を叩くんじゃないぞ、無礼者め!」
圭太はそれまでの僕への好意的な態度を全否定するかのように、少年に威張り散らしていた。
もはやそこに親友の面影はない。
僕は親友のえげつない姿を見たショックと、見つかってはいけないという警戒の両方の意味で、歩道橋の影に身を潜めた。
「それじゃあ、行くぞ」
バラ様の掛け声のあとに、3人の歩く音が鳴り始め、だんだんと遠ざかっていく。歩道橋の下からは、少年の弱々しい泣き声だけが響いていた。
僕はそんな無残な光景を作り出した圭太が許せないと思った。トゲだらけの事実を考えていたら、歩道橋に座ったまま、いつの間にかスマートフォンを耳にかざしていた。
「すみません。警察ですか。福沢歩道橋にいるんですけど、その下でカツアゲが起きました。ウチの高校の3人組が、中学生からカツアゲしたんです。中学生が歩道橋の下で超泣いてます」
この電話によって、親友(だった奴)を含む3人は、翌日恐喝の罪で逮捕された。
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