占い師

「もし、そこの少年。ちょっとお待ちなさいな」


 繁華街に近い裏通り。そこで英治は声を掛けられた。

 見ると、折り畳みのテーブルの向こうにフードのようなものをかぶった女性。


 占い師・・街角で占いをする、辻占い師だ。


「少年、そんなに急いでどこに行くのかな?」


 フードと思ったのはショールのようなものをかぶっていたからだった。

 ショールの向こう、暗がりに見えるのは、妖艶な美女。

 英治は無視して行こうとした。


「あんた・・そっちに行ったら悪い運勢が出てるよ。結構な確率で死ぬかもしれない」


 カードをめくりながら、その占い師は言った。

 英治は立ち止った。


 そして占い師に言った。


「絶対死ぬわけじゃないですから。死なないかもしれない」

「ほお・・・危険があるってわかっているのかい。でも、それでも行くのは何のためだい?」


 占い師はカードをテーブルに広げ、めくりながら言う。


「・・・これは・・・呪いみたいなもんです」

「呪い?ほお・・・」

「だから、行かないという選択肢はないんです。大丈夫、3割くらいの確率で死なないですから」


 本当は違った。

 いろいろ検討した結果、誰も死なない未来が表示されるようになってきた。

 5回に1回は・・だけど。


「あんた・・自分が危険でも、誰から感謝もされなくても行くのかい?しかも、正義でもなければ、自己満足ですらない。変わっているねえ・・」


 占い師はカードをめくる。


「やっぱり、占いでも僕は死ぬでしょうか?」

「そうだね、高確率で・・・あんたが、どうやってそれを知ったのか、興味あるねぇ」


 占い師は、嬉しそうに言った。


「そうですか・・」


 英治は繁華街の方を見た。決意は変わらないようだ。


「あんた・・まだ若いのに面白いね。名前は?」

「・・・名前ですか?」

「偽名でも何でもいいよ。あんたを何と呼べばいい?」

「じゃあ・・・僕は、”オーバークロック”で」


 すると、占い師はクックックッと笑った後、名乗った。


「ひさびさに、面白い相手に会ったよ。その名に対しては、”シャドーウォーカー”って名乗ろうか。きっと、また会うだろう」


「でも、僕は死んじゃうかもしれませんよ」

「ラッキーアイテムを特別に教えてあげよう。そこの自販機で缶コーヒーを買いな。そのジャンパーの左のポケットに入れておくといいことあるよ」

「はぁ・・」


 英治は、自販機にコインを投入した。

「どれでもいいんですか?」

「その一番下の段の、一番右だね」


 英治がボタンを押すと、暖かい缶が出てきた。


「ありがとうございます。じゃあ、またどこかで会うんですね」

「きっとね。その時を楽しみにしているよ」


「そうそう、スーツの男には気をつけなさい」

「スーツ?」

 確か犯人は黒っぽいジャンパーだったはず。

 まぁ占いだから外れることもあるか・・・


 英治は占い師に背を向けて歩き出した。

 死ぬかもしれない。それでも、行かないわけにはいかなかった。

 

 誰かが死ぬとわかっているならば・・・

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