第8話 依頼③
エドたちは路地裏での話を終えた後、ミュリエルの隠れ家へと移動した。
先程の路地裏から15分ほど行った住宅街の一角だった。
外から見た感じは、少し古ぼけてはいるがしっかりとした作りのごく普通の民家だ。
「改めて自己紹介といこうか」
リビングだろうか、6人ほどが食事を囲めそうなテーブルと簡素な椅子が4脚置かれていた。
エドに壁側に座るように指示したミュリエルが言った。
「私の名前は、ミュリエル・ウェイレット
パトリシア様の護衛を務めている」
「私はパトリシア・シール・サイラス
サイラス王国の第2王女よ!」
やっぱり胸をそらしながら、パトリシアは自己紹介をした。
ミュリエルからは、小声で「あんまり大きい声を出さないでください」と注意されている。
声の感じは偉そうに聞こえるが、偉そうに見えないのがすごい所だ。
「僕はエド・イティスです
ただの……旅人です」
この世界では珍しい黒の瞳には、少し戸惑いの光があったがミュリエルは気にせず話をすすめることにした。
「この件は他言無用、もし話せばお前すぐに平穏な日々が始まるだろう」
腰の剣に手をやりながらミュリエルが脅す。
先ほどとは違い声に若干の殺気が混じっている。
「わ、わかっていますよ」
殺気を感じたのか焦った様にエドが言う。
「まずこの王国について貴様はどれだけ知っている?」
「えーと、百を超える人族の国をまとめている人族最大の王国で、今の国王はアラスター・シール・サイラス国王。巷では病を患っているとかいう噂がありますが……」
「あとは、第1王女セイディア様が継承権を放棄して、宮廷内で不穏な空気が流れているとか」
エドが知っている情報は、この辺に住まうものなら周知の事実であった。
「そこまで、知っているなら話は早い
つまり、継承権争いの渦中にいるパトリシア様を私達だけでお守りしなくてはならないのだ」
「他に頼れる人はいないのですか?」
エドは不思議に思って聞いた。
第1王女が継承権を放棄したということは、第2王女であるパトリシアが一番力を持っているはずでは?
「そのへんの細かいことについては、お前が信用に足る人物と判断してからだ」
[疑心暗鬼ということかな]
エドは自分なりに納得すると、コクリと頷いた。
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