第14話

 さらに馬男が語るところによると、職場内の他の箇所にも小型カメラを設置して盗撮していたのが、誰かによって発見されてしまったのか、ある日を堺に映像が受信できなくなった個体がいくつかあり、実際にカメラそのものも隠し場所を確認してみると消えてなくなっていたという。俺はそのことで馬男に嫌疑を掛けられていたようだ……、しかも彼にとっては相当に有力な容疑者候補であった人物が自らノコノコと深夜の職場に忍び込んできたのだから、疑惑は確信へと変わったに違いない。



「あなた、Kさんのマスクに興味があるんでしょう?ご存知だと思いますが、僕は前科者ですからねえ、そちら方面にはどうしても敏感になっちゃうんだよなあ……へへ」と馬男は急に顔見知りの同業と語り合うような親しみ示して、くだけた口調になった。



 俺のことを隠しカメラで盗撮し監視していた賜物というべきなのか、こちらの事情が馬男にはすっかり筒抜けであった。そのうえで、この男は自分の悪事についてもペラペラと自ら開陳するというヘマを犯していて、それはひどく滑稽な姿に映った。



 設置したはずの隠しカメラが無くなっているという、盗撮している人間からしたらあってはならない事態に直面し、しばらくの間、猜疑心の塊になっていて精神的にもまいっていたのだろう。やっと犯人を追い詰めたという確信と解放感で馬男は饒舌になっているように思われた。問うに落ちず語るに落ちるというやつだろうか。馬男は自ら犯した罪の全貌を生きいきと話し始めていた。



「実はKさんが身元引受人になってくれたんですよね、例の盗撮事件で……、このビルの一階エントランスホールで受付しているアンドロイドのポンコツたちがいっちょうまえに騒ぎ立てたアレです。まさかアンドロイドが辱めを受けたなんて言い出すとは思わないじゃないですか。でもアンドロイドたちの中でも、何体かいるうちの一体なんて事が明るみに出てから、まんざらでもなさそうな表情だったって話ですし。同じ工場で作れられた機械のくせに義憤に駆られるのか、はたまた羞恥心で年端もいかない少女のように頬を赤らめるのか。そのへんはアンドロイドでも個体差が大きいものなんだなあって感心しちゃいました。まあ、僕はあいつらに「魂」みたいなものが宿っているなんて主張する気はさらさらないですけれども。ただ自分が発端となってしまった事柄というか事件に対して、ピーマンみたいに空っぽなはずのアンドロイドたちから色々と辛辣で、それこそ本当の人間みたいな意見を言われてみると、ちょっと心が揺らぐと言いますかね、あれ?もしかしてこの『人型の入れ物』にも心があるのかな?なんて錯覚しちゃったりして……、不思議なもんです。



 あと不思議と言えば、だいぶ世間をお騒がせしてしまいましたけれど、案外、僕が犯人だと知っている人っていうのは少ないんですよ。その辺もKさんが頑張ってくれたのかなって思えてちょっと泣けてくるんです……、とにかく人情の人ですから彼女は。僕ね、一度彼女のお子さんのことを気まぐれで『可愛いですね』って褒めたことがあるんですよ、お子さんの写真を見る機会があって。そしらたら、もうKさん本当に嬉しそうにしてて、ああ、僕はこの感覚は一生分からないんだろうなあ、って思いながら彼女のことを見つめていたんですけれども……、そしらたら急にKさんの事がいじらしく感じるようになっちゃって、『この人のことをもっと知りたい』って思っちゃったんですよね。ハハハッ、……でも、あなたも、そのクチでしょう?」

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