第5話

 ふと我に返り、壁に掛かった時計に目をやると、日付が変わりそうな時刻に差し掛かっていた。どうやら酒を飲みながらオナニーにふけっているうちに、酔いが回ってそのまま全裸の状態で眠ってしまったらしい。


窓のブラインドはしまっておらず、外の景色が丸見えだったが、幸いマンションの上層階に住んでいるので、全裸でうたた寝している姿を誰かに覗かれていたなんていう大失態を犯している可能性はなかった。


ただ身体が少し冷えている感じがして、とりあえず何か着なくては風邪をひいてしまうと思いつつ、俺はいつの間にか手にしていた飲みさしの缶入りハイボールの残りをすすった。



 そこで自分の身体のある異変に気が付いたのだが、面白いことに俺のペニスはすっかり勃起していて、まったくおさまる気配がないのだった。


オナニーの途中で眠りに落ちてしまったせいで、どうやら射精に至ることができずに、そのままパソコンがフリーズでもしてしまったかのように、弓なりに反り返った形状を維持して立派に俺の股間でそれは屹立していた。


寝起きなので、いわゆる「朝だち」のような状態になっているのかと思っていたが、一向に元の大きさに戻ろうとしない。まだ裸のままだったので、軽くオナニーの続きを試みてみたが気分が乗ってくることはなかった。


ただ、なにか欲望のわだかまりのようなものが確実に身体の中にあって、それはKさんのマスクによってもたらされていることなのだろう……、と俺はしぶしぶその分かりきっていた事実を認めることにした。


実のところ、家に帰ってきた時点で……、いや職場でKさんがマスクを交換して着用していた方をデスクに仕舞った様子を目撃してしまったあの瞬間から、俺は自分の欲求を正確に理解していたのだ。


しかしながら、その欲求を認識したところで「どうしようもないじゃないか……」という結論に至ることが分かっていたからこそ、俺は自分をごまかすかのように、さして興味のないアダルト動画を眺めるという愚行を犯していたのだ。


だが、この欲求は実に力強くて、そんな小手先のまやかしに誤魔化されるような芯のない衝動ではなかった。Kさんのマスクはそれほど俺にとって重要なものになりつつあった。


ただ、何を考えるにしてもまだ少しだけ酒が足りない気がして、俺は冷蔵庫へビールの缶を取りに行った。



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覚悟の自涜 |第5話| 牧原征爾

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