第6話 吹向ちゃん、マグネティック。
恋に茫然とする知念ちゃんを残し、校舎裏から抜け出した私たち。
「ご、ゴメンね陰原くん。盗み聞きするみたいな感じになって」
私は、心のモヤモヤを
すると、沈黙の
「いや、むしろ助かったよ。
断った後、一人でトレーニング続けるのも気分が悪そうだったし」
すっかり大人しくなった野良犬に頬を舐めさせながらそう言いました。
そこに気絶から目覚め、未だ私の肩を借りている吹向さんが
「……あの、もしかして私……凄い迷惑を掛けましたか?」
「え、えーっと……特に問題ないって!」
とても不安そうに、これまでの記憶や現状の空気感を読み取って
何故なら吹向さんは——、
「それに——、彼女は特に僕の事に興味が無かったと思うし」
「え?」
と、吹向さんについて頬に冷や汗を流しながら考察しかけていた私の耳に思いもよらない言葉が届いて。思わず驚き振り返ると陰原くんが犬を
まさか、と私はそう思ったのです。
「野瀬さんの他に陰から何人かの友達に監視されていたみたいだし、
アレはきっと罰ゲームか何かなんじゃないかな」
【ええ……?】
まさかまさか、と私は心の中で首を振っているのです。
「いや……あのね陰原くん……」
「あ、それ分かります。私も昔、男子たちの罰ゲームで告白されたことあります」
【ふ、吹向ちゃぁぁあん⁉】
しかし、陰原くんに同意を示した吹向さんの一言が私の首を折れるかと思う程の勢いで振り向かせて否定を止めさせたのでした。
「酷い話だ。想像力が足りないよ」
【重いよ二人とも……あの一年ちゃん本気だったと思うんだけどなぁ】
《野勢ちゃんは諦めが早い。頑張れ、知念ちゃん》
だって私は、告白とかそういう経験無いんだもん。偉そうには言えません。
頑張れ、知念ちゃん。
「あ、そうだ……陰原くん、さっきの用具入れの時もありがとう」
それでも必要以上に空気中の文字列を読んでしまう二人が、何故か気付かない私の苦虫を噛んでいるような表情を尻目に続けた話に、
「そうそう! ホントにアレは災難だったね」
私はネガティブな空気を払えそうな光明を感じて明るく思い出したフリをしました。
「結局は伊豆ちゃんのサプライズが失敗したから、あんなことになったみたいでさ!」
「二人とも怪我が無くて本当に良かったよねー‼ ね!」
知念ちゃんの為にも、ここは無理矢理にでも話題を変えようとそう、思っているのです。
「私、昔から運が良いというか。体だけは丈夫で、
車とかに
【うん。運よく?】
返ってきた反応に疑問を感じても、私の愛想笑いは固まったままでした。
すると、
「ああ、そうかもね。触った感じ、
なんの疑念も無く素直に続いた陰原くんの反応に、また私の心に
【え、納得しちゃう? そんな違うベクトルから?】
【吹向加代さんは、不幸を呼び寄せる不思議な少女です】
そして私の肩を借りている吹向の顔を見ながら私がそんな想いを整えていると、
早速と事件が起きるのです。
「上、危ない‼」
「「「⁉」」」
頭上から聞こえた唐突な声に驚いて上を見上げる私たち。
その
ポス。
「……」
【黒板消し‼】
陰原くんが頭上を見上げた顔面を
しかし——、まだ不幸は終わりません。
「——⁉」
ハッと何かに気付いた陰原くんが突然に動き出し、私達の前方に飛び出しました。
バシッツ! トン、トン、トン。
【サッカーボール⁉】
飛んできたボールを陰原くんが受け止めたらしく、肌が弾けるような衝突音の後でコンクリートの路上にボールが通りすがりに謝罪するように
更に——、
ひゅうう——、
「急に風——⁉」
バサバサバサ——、
【……有料のコンビニ袋です。セクシー】
「ふぅ……」
度重なる小さな災難の連続、陰原くんの顔に見事に引っ掛かったコンビニ袋を、息を吐きながら陰原くん自身が取り除くと、
次は——、
「ごめんなさい、油断したら飛んでいっちゃって」
「アレ? 太皷ちゃんに陰原くん……それに吹向さん」
【教室に居るはずの追掛さんが現れました】
「追掛さん、どうしてここに?」
「ふふふ、食後の散歩でもと思いまして」
「それより——なるほど、ふふふ」
「その子犬は近所に住んでいる吉村さんの飼い犬ですね」
「吉村さん?」
「電話をしてみますね。それから吹向さんも私が預かりますよ、ちょうど保健室に用事があったので」
「陰原くんは、太皷ちゃんの話を聞いてあげてください。何かお願いがあるそうなので」
「 え゛」
【ここで追掛さんに出会ったことが吹向ちゃんの呼び寄せた一番の不幸かもしれません】
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