第4話 追掛さん、シッテイル。
【昼休みです。】
「陰原くんは協調性がなさすぎる‼」
【まだまだ、玉里ちゃんは御怒りモードです】
「まぁまぁ、玉里ちゃん。落ち着いて」
私は、ご機嫌取りにお弁当の卵焼きを差し出しました。
「陰原くんのマイペースには慣れるしかないですよ。特に誰かに迷惑をかける訳でもないですから」
モグリと卵焼きに食いつく玉里ちゃんを横目に、
二年生に進級してから、ここ最近になっての話だけれど。
「迷惑掛かってるでしょ‼ さっきの話だって、陰原くんがしっかり説明してれば!」
そんな友人二人がかりでも、玉里ちゃんの不満は収まりません。
「まぁまぁ、玉里ちゃん。落ち着いて」
なので私は、また自分のお弁当箱からおかずを一つ取り出します。
唐揚げ……
【カロリー献上ダイエットです】
「そういえば陰原くんって、いつも昼休みは居ないよね。どこ行ってるんだろ」
モグモグと
「運動部の勧誘から逃げてるんですよ。今日は窓から飛んで出ていったのを見ました」
水筒の
【え。ここ三階……】
真偽が疑わしくなるようなそんな答えに動揺の
【——窓には謎のロープが2本ありました】
【縄ハシゴだ……】
そこには、窓枠に括りつけられた二本の縄と風に煽られるハシゴの姿。
「へ、へぇ……でも意外。何で部活やらないんだろ、陰原くん」
取り敢えず、見なかったことにしました。
「ふん。どうせ筋トレの邪魔だからとかそんな理由でしょ」
私が何も目撃しなかった事にしようと、あからさまに変えた話題に食いついたのは玉里ちゃんでした。悪態を吐くように、
なので、スルーの方向で。
「はは……追掛さんは何か知ってる? 去年も同じクラスだったんだよね」
私は陰原くんが部活動をしない理由が気になって私より少しは付き合いが長いという追掛さんに聞いてみる事にしました。すると追掛さんは、
「んー。知ってますけど、それは聞かない方が良いかと」
人差し指に自分の頬を置いて困り眉で微笑みます。
「ええー、じゃあ聞かなーい」
「陰原くん、実は運動音痴なんですよー」
【追掛さんは、
カンラカンラと笑いながら諦めると、楽しげに答えを口にする困ったさん。
私達は、ドッと明るい空気で笑い合いました。
「へぇ……運動音痴なんだぁ」
そして一段落、陰原くんの秘密を
「運動音痴⁉」
ズガビシャンと脳に走った電流が私の首を追掛さんの方に勢いよく向けさせて。
「ええ。基本的に不器用な方ですから」
追掛さんは実に楽しげです。
「へ、ぇ……い、意外」
動揺が隠しきれない私。目が泳ぎに泳いで。
【アレ……じゃあ私のスマートな運動ライフ計画は⁉】
取り敢えず、ストローを刺した牛乳パックを机に置きました。
「今頃は、体力測定に向けて特訓をしてるのでは?」
「なによ……、体力測定の特訓って……」
ムムムと思考を巡らせる私を他所に、首を傾げて推測調の追掛さんと呆れの吐息を吐く玉里ちゃんの会話は進みます。しかし、
「効率の良い反復横跳びの仕方とか、ボール投げのフォーム確認とか?」
「体力測定に命でも賭けてんのかよ‼」
突拍子も無い推論に、机に顔を埋め込みそうな勢いで机に突っ伏しつつツッコミを入れる玉里ちゃん。
【玉里ちゃん⁉ 早くも限界⁉】
どうやらまだまだ、疲労とストレスが溜まっているようです。
しかし、
「玉里さんは、本当に陰原くんのこと嫌いですよね」
ウフフと擬音が聞こえてきそうな微笑みで何事も無かったかのように話を進める追掛さんが不意に玉里ちゃんに尋ねると、
「別に……嫌いじゃない。むかつくだけ」
玉里ちゃんはまだまだ限界ではない様子で渋々とした表情の顔をまず動かしてそう答えました。そして心重い上半身を起き上がらせて、
「だって陰原くん、いつもあんなに授業中ふざけてるのに——」
【あ、私の牛乳……】
恐らく私の牛乳を間違って手に取り、語ったのです。
「学力テストで学年一位ってどういう事よ‼ 悔しい‼」
陰原鍛治くんを敵視する理由を。
語った後、全力の物凄い表情でストローを吸い込んで。
【玉里ちゃんは、学年三位でした。そして私の牛乳が死にました】
「陰原くんは勉強の方もストイックにやってるんですよね。あの眼のクマは平均睡眠六時間二十七分の結果ですし」
【乳牛……】
「へ、へぇ……でも意外と寝てるんだね、もっと夜更かししてるかと……」
【んー、ていうか……なんでそんなことまで知ってるの?】
「それにしても陰原くんの事、ずいぶん詳しいんだね、追掛さん」
「……」
「……?」
「陰原くんの事だけじゃありませんよ、ふふふ……」
【追掛さんは、少しだけ怖いです】
「どうせ私なんか幾ら頑張ったって結果の出ない堅物不適合者なんだ……へへへ」
【それと、ホントの玉里ちゃんは弱気な女の子です】
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