第2話 野瀬ちゃん、モノローグ。
【私の名前は
【痩せて……痩せていたいのです‼】
父と母の面影が学校トイレの鏡に映る今日この頃。私は物心ついた頃からの決意を改める。
【太皷。私の名前】
【小さい頃はそんなに気にしては居なかったのです】
【でも——】
【女の子に『太』って文字を付けますか⁉】
【ねぇ‼ 全国と私のお母さん‼】
昔の母の写真と、中年太りした体でリビングに寝転がる現在の母の姿を思い出した私は、廊下の窓に映る自分に向けて拳を向ける。
【私は絶対、素敵で美人なママになる‼】
青空に思い描く未来予想図。私は決意を固めているのです。
【だからこそ、今‼ 今が大事なのだ】
【夏休みの宿題みたいに場当たり的に生きてロクな事が無いのは、これまでの短い人生で十分理解している】
『アンタ、宿題やってんの!』
母の怒声と
【そう——、私に必要なのは習慣。楽な道に逃げない心‼】
【私は学ばなければならない】
【この……陰原鍛治という男子の生き方を‼】
カっと決意を新たに教室に戻った私の視界に、真っ先に飛び込んだのは先ほど吹向さんを下敷きにした用具入れと向かい合う死んだ目をした男の子、陰原鍛治くん。
「……」
【か……陰原くん‼】
「陰原くん、戻ってたんだ。吹向さんは大丈夫だった?」
「……うん。テーピング」
「……」
「……」
【会話続かねぇー‼ もっと詳しく教えてよ‼】
【でもこれはチャンス‼ ここで仲良くなって陰原くんに一人じゃ続けられない私のダイエットをサポートして貰うんだ‼】
ハッと我に返り、心の中で鼻息荒くする私。
「はは……そんなところで立って何してるの? またスクワット?」
「これ、良い重さだったなと思って」
【ん?】
「溶接か……縄で縛るか」
【んん⁉】
「二宮金次郎方式……」
【背負う気だぁぁぁぁあ‼ 彼は勤勉だけども‼】
【奇行すぎる‼】
【
「い、いや……流石に学校の備品を勝手に使うのはダメじゃない?」
「幾らするかな」
【買う気か⁉】
「あ、ゲハラー。その用具入れ、なんか開かないから開けてみてくれよ」
「……りょ」
【ギャルか⁉】
【りょ:了解の略語、陽キャなパリピが
「……すぅ、ふんっっつ‼」
「「「「⁉」」」」
バキリ‼
【瞬間、私たちは絶句した。しかしそれは——】
【ゲハラーくんこと、陰原くんの謎の掛け声でも、まして用具入れの戸が勢いの良い破壊音を放ったからでもない】
バタリ。用具入れの中から陰原くんの胸に飛び込む中身。
【事件が、明るみになったのです】
「さ……サプラちゃん⁉」
それは今日、てっきり休みだと思っていた同級生・
「は? 伊豆⁉」
「なんだ、またサプライズか?」
明るみになってしまった事件に続々と集まる野次馬たち。
すると、そんな状況下でサプラちゃんを抱きかかえる陰原くんは、
「……」
死んだ魚の眼を生き返らせる事も、驚きも見せぬままにサプラちゃんの持ち方を変えた。
【お、お、お姫さままー‼】
【お姫さまま:お姫様抱っこと言いたかったが口が上手く回らなかった時の発音】
【陰原くん、上腕二頭筋を鍛えるってよ】
【保健委員、本日二度目の保健室へ】
【私の想いを伝えるのは、まだ先のようです】
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