第20話

シラヌイの街に司達が帰ってきた。

「なんか、町の様子が変じゃない?」

「ああ、人が居ないな」

ミクルとユーリが先に、辺りを見て回った。

広場にも、人が居ない。


「嫌な予感がする」

司達は急いで王宮に向かった。


「ただいま戻りました!」

謁見の間に行くと、王と王妃が立ち尽くしていた。

その視線の先に居たのは、魔王と大樹だった。


「なぜここに居る!?」

司の問いかけに大樹が答えた。

「町を滅ぼすためだ」

「なんですって!?」

ミクルが構えた。


「王と王妃は逃げてください!」

ユーリの言葉で、王と王妃が謁見の間から逃げていった。

「貴様ら、何者だ?」


「勇者見習いとその育成者よ!」

ミクルは答えた後、呪文を唱えた。

「ファイアボール!!」

「小賢しい!」

大樹は、魔王に向かって放たれたミクルのファイアボールを盾で防いだ。


「行くぞ!」

大樹がユーリに斬りかかる。

ユーリはそれを躱して、剣を大樹に向けた。


司は手に入れたばかりの魔法銃に、魔力を込めた。

「攻撃力上昇!」

ユーリに魔法銃を向け、能力UPの魔法をかける。

魔法銃の効果で、普通に魔法をかけるよりも攻撃力の上がり方が高かった。


「えい!」

ユーリが大樹に斬り掛かる。

大樹の鎧が少し切れた。

「面白い」

魔王は後ろで笑っている。


「私にも魔法をかけなさい、司!」

司はミクルに魔法銃を向ける。

「魔力上昇!」

「サンダーボルト!!」

大樹にミクルの魔法が直撃した。


「くっ」

「今よ、司!」

ミクルの攻撃で、大樹がひるんだ。


「光魔法!!」

大樹に魔法銃を向ける。

そして、光の線が、魔法銃から大樹へとまっすぐに伸びた。

「ああ!!」

倒れた大樹から、黒いもやのようなものが浮かんで消えた。


「俺は、人を、許せない」

大樹は倒れたまま、呟くように言った。

魔王はそれを見て、笑った。


「親友とやらに倒されるとは、愚かなり大樹」

「お前が魔王か!?」

司は銃を構えて、魔王に向けた。

「光魔法!!」


光の束が魔王に当たったが、魔王は両手でそれを受け止めるとそのまま握りつぶした。

「効かぬ」

魔王が呪文を唱える。

「ダークファイア」

魔王の一撃で、ミクルとユーリ、司は倒れた。

「人間は弱い」


魔王はミクルの頭を踏んだ。

「どうして歯向かうのだ? 我は自由の国を創造しようとしているだけだ」

「自由? すべての人間を消すつもりでしょ!?」

ミクルがそう言うと、魔王はミクルを蹴り飛ばした。


「お前は親友を殺しても平気なのだな?」

司に向かって魔王が言った。

「貴様に言われたくはない!!」

司はもう一度、銃に魔力を注いだ。


「光魔法!!」

今度は強い光が一直線に魔王の体を突き破った。

その瞬間、ユーリが魔王の体を袈裟懸けに切り裂いた。

「お、おお」

「油断していたな、魔王!」

ミクルはよろけた魔王の足下から逃げ出し、近距離で魔法をかける。

「スパークファイア!!!」


魔王が倒れた。

「やったのか?」

司達は魔王の様子をじっと見つめた。


「我だけでは、終わらぬ。クローズワールド!!」

魔王が呪文を唱えると、城が崩れ始めた。

「逃げよう!」

司達は城から逃げ出した。


城は跡形もなく崩れ去った。

「魔王は生きてるの? 死んでるの?」

ミクルが独り言のように言った。

「分からない、でも、もう生きては居ないと思う」

司がそれに答えた。


そのとき、司の体が輝き始めた。

「司!?」

ユーリが叫ぶ。

「召喚の魔法が切れたの!?」

ミクルは司の腕をつかもうとしたが、司はもう消えていた。


司は元の世界の自分の部屋に戻っていた。

ミクル達といた時間は夢だったのだろうか?

机の上にはノートが開かれていた。

そこには大樹の字で、異世界でも親友だ、と書かれていた。


司はノートを閉じて、ベッドに潜り込んだ。

「結局、俺は何者にも成れなかったんだ」

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勇者の育成係に任命されました 茜カナコ @akanekanako

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