第14話

「司、居る?」

ミクルが司の部屋をノックしながら声をかけた。

ドアを回すと、そこには誰も居なかった。

「司、何処に行ったの!?」


その頃、司は一人で消された町ミレスに向かっていた。

魔物もスライム位しか現れなかったので、一人でもミレスに着くことが出来た。


ミレスの町は静まりかえっていた。

司は一人、街並みを歩いて考えていた。

「なぜ、俺は魔王を倒そうとしているんだ?」

一人呟いても、答えはなかった。


この町には生命というものが存在しない。

魔王の力を感じると、恐ろしい気がする。

そのとき、声がした。


「司か?」

「誰だ!?」

司が声の方向を向くと、そこには現世で親友だった、佐藤大樹(さとう たいじゅ)が居た。

「大樹!? なぜお前が此所に!?」

「お前こそ、なぜここに居るんだ?」

大樹は懐かしそうな顔をした後、急に表情を曇らせた。

「まさか、司は勇者に転生したのか?」


「違う、勇者に召喚されたんだ」

「そうか、なら、もうお前は敵だな」

大樹はそう言うと、剣で斬り掛かってきた。


「どうしたんだ!? 大樹!?」

「俺は魔王に召喚された。人間が憎いのは俺だけじゃないだろう?」

大樹は剣を引くと、話し続けた。


「司だって人間嫌いだったじゃないか」

「それは・・・・・・」

嫌な思い出だ。俺は確かに現世で引きこもりの人間嫌いだった。

「俺たちは親友だっただろう? 勇者じゃなくて魔王に着いたらどうだ?」

「そんなことを言われても」

司はひるんだ。

「司は流されやすいからな。今なら俺から魔王に口利きをしてやるぞ?」


「・・・・・・断る」

司は声にならないミクルの悲痛な顔を思い出していた。

「どうしてだ? くだらない奴らなんて死んでしまえば良いって言ってたじゃないか」

大樹はため息をついてから微笑んだ。

「今なら間に合うぞ、司?」

「断ると言ったら断る!!」

司は大樹に剣を向けた。


「それが答えか、司」

「ああ」

司は大樹に斬り掛かったが、大樹は左手で司の剣をなぎ払った。

そして、司は大きく振り上げた拳で大樹に殴られた。

「くっ!」


「お前は弱いな! 話にならない!」

「大樹・・・・・・」

「今日は見逃してやる、次に俺の前に現れた時は従うか死ぬかどちらかだ」

大樹はそう言うと、ミレスの町を後にした。


一人残された司は、魔王軍についた大樹を思って困惑していた。

「魔王軍に大樹が召喚されているなんて、信じられない」

しかし、殴られた頬は確かに痛かった。


司は一人、シラヌイの街へ帰ることにした。

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