第15話

「司、何処へ行ってたの?」

部屋へ帰ると、ミクルが不機嫌な顔で待ち構えていた。


「何処だって良いだろ?」

俺はミクルをかわして、部屋に戻ろうとした。

「言いなさいよ。何処に行ってたの?」

俺は俯いて答えた。


「ミレスの町だ」

「何しに行ったの?」

ミクルは眉をひそめて、俺に問いかけた。

「俺は何で魔王軍と戦うんだろうって、考えたくて行った」


「そう、答えは出た?」

ミクルの質問に俺は首を振った。

「なんで!? 魔王軍は人殺しなのよ!?」

「人だって、魔物を殺しているだろう?」

俺が言い返すと、ミクルは俺の頬を叩いた。


「魔物が襲うから、人は魔物を倒すのよ!?」

「そうかもしれないけれど、俺はまだ被害に遭っていない」

俺の言葉に、ミクルは顔を赤くして怒っている。

「信じられない。司って冷たいのね」

「そうだな」

俺は呟くように言った。


「じゃあ、おやすみ」

「ちょっと、話はまだ終わってないわよ!?」

ミクルの声を遮るように、俺はドアを開け自分の部屋に入った。


「魔王軍に入れ、か」

俺はベッドに腰掛けると、大樹の言っていた言葉を思い出した。

「人嫌いだったもんな、大樹も」

俺はため息をついた。


召喚されたのが魔王軍だったら、俺は大樹のようになっていたのかも知れない。

それにしても、大樹は強かった。

大樹がその気になっていたら、俺は殺されていた。


「司、どうしたの? 貴方、帰ってきてからちょっと変よ?」

ミクルの声がドア越しに聞こえる。

「ミクル、まだ居たのか?」

「司、どうしたの? 何があったの?」

「ちょっと、懐かしい奴に会ったんだよ」

俺はミクルに大樹のことを詳しく話すつもりはなかった。


「そう、何かあったら、私に言いなさい」

「ありがとう」

ミクルが立ち去る音が聞こえた。


俺はもう一度考える。

どうして勇者の育成係なんかになってしまったのだろう。

人間嫌いだというのに。

考えていても、答えは出ない。

俺は、魔王のことを考えた。


「大樹を召喚して、人間を殲滅させたいのか」

ため息をつく。

じっとミレスの街を見つめていたミクルの表情が頭に浮かぶ。

「ミクルは大事な家族を失っている」

俺は、大事な家族というフレーズが少し羨ましかった。


「俺に出来ることは、勇者達のフォローか」


俺は一人呟いて、ベッドに寝転んだ。

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