第38話 会議1
「あの、一度復興計画について話し合われたらどうでしょうか?」
「あ? ……んー、そうだな。よし、そうしよう! んじゃエリス、お前も来い」
「え?」
「言い出しっぺだろ」
真っ当な意見を述べたエリス様に、一度は面倒臭そうに悩んだアメルダだったが、エリス様を道連れにすることで同意した。
頭領の部屋で開かれた主要者会議。長であるアメルダを中央にして左右に3人ずつが床に座る。モーガンと製鉄所で鉄の矢を作ってくれたオルバー、さっき会ったワモンも同席しているが、あとの3人はまだ自己紹介もしていない人たちだった。
さて、どんな話し合いになるのか。僕は立って、エリス様は椅子に座って、部屋の隅から会議の動向を窺っていた。
「コホン。えー。なんだ……。とりあえず瓦礫をどかして、んでまた鉄を取ってこよう。それで直せば、もう終わりだ」
「……どかすとは、どうやって?」
「バーンと下に放り投げれば良いだろ?」
「上から落ちてくる鉄板のせいで、下の鉄板はもう歪み切っている。騒音の苦情も多いが?」
「だったら歪んだ奴も後で交換すれば良いだろ! 音なんて耳塞いでりゃ良いんだ!」
「簡単に言うな、アホ頭領……」
「んだと⁉︎ 聞こえてるぞ⁉︎ モーガン!」
「瓦礫撤去より、食料調達はどうなってんだい? 当分は行かないつもりなのかい? この分だと明後日には食糧庫が空になるよ?」
「え、そうなの?」
「頭領、アナタ、鉄を取ってくる、簡単に言う。でも、全然、魔剣、足らない」
「……足らないの?」
「家を失った奴らはどうする? どこに置いておくつもりだ?」
「え、ええっと……」
「薬の量が不足する可能性があります。どのように対処致しましょう」
「そ、それは……」
「頭領!」
「頭領!」
「ああもう、うるさい! そんなもん自分たちで考えろ!」
会議は議長の的を得ない発言から始まった。まとまりを欠く長の解決策。アメルダは相当なポテンシャルを持った武闘家だが、内政に関してはズブの素人以下だった。せっかく話し合いの場を設けても、これでは一向に埒が明かない。
これでよく山並みの巨大な街が出来たものだな、と嫌味が心の中で転がる。
「エリス! お前はどう思う⁉︎」
「え?」
「コラ! 逃げるな頭領!」
「逃げてなんかねぇよ! 他の奴の意見を聞くのも大事なことだろ⁉︎」
「あの、私は部外者ですし、そういうことは皆様で話し合われた方がよろしいかと」
「部外者だろうが何だろうが、アメルダに任せるよりはマシだ」
「いっそ、聖女様に全てを任せたらどうだ?」
「は!? 何言ってんだ、オルバー!?」
「聞き役になってくれるだけで良いのよ。お願いだから、参加してくれないかしら……?」
なんとも急な申し出だ。もしかしたら、いや、間違いなくエリス様の王女としての、聖女としての素質に期待して言っていることだろう。
どうするべきかと、エリス様は視線で相談してくる。失礼だが、アメルダに任せるよりはマシという言葉に共感してしまったので、僕は小さく頷いた。
「で、では、少しだけ……」
「おら、頭領。そこを退け」
「なっ⁉︎ 私がこの国の長だぞ! なんで退かなきゃいけねぇんだ!」
一国の長は子供のような抵抗を見せたが、主要者全員が沈黙の目で圧殺し、いじけるようにして席をたった。
歓迎される空気の中、戸惑いながらもエリス様は空席となった議長の席に座った。
先刻の紛争では多くの負傷者を回復させ、死者すら蘇らせたエリス様。僕には微塵もない、これがカリスマ性という奴かと驚くほどに、街では聖女として崇められ、短い滞在でもその人望は日に日に厚みを増していった。部外者には変わらないが、面白半分で任せてみようと思われるくらいには、既に信頼があるのかもしれない。
「私に出来るでしょうか」
全員が胡座で座る中、エリス様だけが正面に足を畳み、上品な姿勢を保っている。
締まりの無かった空気がどうだろう、一瞬にして緊張感が漂う空間に様変わりした。
優雅なエリス様を見ると、こちらの思考が洗礼されたように、脳が伝えなきゃいけない事を念頭に運んできているような気がする。
王の血を継ぐ者としての威厳がそうさせるのか、まさか何かのスキルが発動しているのかとも思ったが、そんなことは馬鹿げた妄想でしか無いと、自分でも分かってる。
「ではまず、皆様の自己紹介からお願いできますでしょうか。皆様はそれぞれどのような役割を担っているのですか?」
対話の基本は自己紹介から。エリス様は主要者一人一人の役職を聞いた。
猫の獣人と思われる姿を持つ「ワモン」は武術、剣術の指南役。世界中から集まったはぐれ者たちや、子供たちに一から戦う術を教え、クロフテリアのために戦える男たちを育ててきた。出稼ぎに行く者を育てることからクエスト班と呼ばれているが、街に留まり肉体労働に徹する男たちも彼が取り仕切っている。
ふくよかな体系に豚の鼻を持つ女性は調理班の「メリダ」。魔物の解体から調理、保管まで請け負い、子供の世話を担う育児班のようなクロフテリアに住む女性たちは、全員彼女の言う事に従う。
ここにいる誰よりも巨体で緑色の肌をもった男が「バーベル」。ローデンスクールの裏手には地下へと続くダンジョンがあるようで、そこで資源を調達するからダンジョン班と呼ばれているらしい。
丸刈りで長く尖がった鼻と長い耳に牙を生やす、クロフテリアの男にしては珍しく細身なのが「マルク」。怪我をした者や病気を患った者を治療する医療班のリーダー。僕の怪我を二度治してくれた回復薬を使ったのも彼らだった。
最初に出会った時に、そのピアスの数が印象的だったイカツイ男「モーガン」。食料に使う魔物を狩るために樹海に潜ることが多い狩猟班のリーダー。
製鉄所でダンジョン班が持ち帰った鉄を加工するのが「オルバー」率いる製鉄班。
こうやって聞いていると、上下関係の言葉遣いはめちゃくちゃでも、みんな生きるために自然と役割分担が出来ているような気がする。
「まず優先すべきは食料の調達ですね。モーガン様、今日中にでも魔物の狩りを再開させて下さい」
「お前に言われねぇでも、やるに決まってんだろ。狩らなきゃ生きていけねぇんだからよ」
モーガンはどこか冷たくエリス様をあしらった。紛争のとき、僕とエリス様はこの頭領の部屋に閉じ込められ、門番をしていたモーガンを僕が吹っ飛ばしてしまう結果となった。もしかしたら今もその事を許していないのかもしれない。
「樹海にはまだテルストロイの兵士が潜伏しているかもしれません。ケイル、護衛として一緒に行って貰えますか?」
「はい。もちろんです」
「護衛なんざ必要ねぇよ! 俺たちはここでいつも狩りをしてきたんだ! 何が来ようと負けやしねぇよ!」
「万全を期すためです。ご了承ください」
「チッ!」
協力し合おうとしても、モーガンの態度は明らかに悪い。やはり僕かエリス様、もしかしたら二人ともが嫌われてるんじゃないだろうか。
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