功績が目立たない弓使い、無能として追放されるが、偶然の出会いで第三王女の従者となる。いまさら僕の援護射撃を評価しても遅い。僕は身分を偽って新しい人生を歩みます

星ノ未来

第1話 追放

 僕の名はアミル・ウェイカー。17歳。

 出身はポフロムという小さな農村たが、今は王都グレンパールにある冒険者ギルド本部で、Sランクパーティ「神童の集い」に参加する弓使いだ。


 この「神童の集い」はレイフォール魔導士学園長オルター・バーセン様から直々に頂いた名誉ある名前だ。

 由来は簡単、同学園を卒業した104期生のエキスパートで結成されたから。


 剛腕、剛力。【怪力の一撃デスグロー】や【破断一閃デススラッシュ】など破壊力のある筋力強化系スキルを多く持つ、ロイド・アッカス様。

 公爵家の長男として生まれた、歴とした貴族様で、王族の親戚に当たる。


 爆炎、爆雹。【業火龍弾ドラゴンファイア】や【氷結隕石アイスメテオ】など極大魔法を司る魔力放出系スキルを多く持つ、ミリアルディア・オートレード様。

 伯爵家の長女として生まれ、幼い頃より魔法の英才教育を受けて育ったという。


 術式改変、新節創造。【原点回帰ワープホール】や【細胞回復アルカナフィール】など回復や補助系のスキルを多く持つ、レイシア・ハートン様。

 子爵家の次女で父親のアーノルド・ハートン様は新しい魔法を作り出す、研究者として働いている。レイシア様の頭の良さは、きっと父親譲りだろう。


 防護、耐性。【不動の盾ゴッドハンド】や【不変の領域ゴールデンサークル】など防御系のスキルを多く持つ、シェイル・エルバーン様

 男爵家の三男で、家系の男子は皆んな幼い頃から騎士となる為の教育を施されるらしい。

 ちなみに長男が剣の騎士、次男が魔法の騎士を目指してしまったから、シェイル様は仕方なく余った盾の騎士を目指したらしい。


 そして最後が僕。

 狙撃、索敵。【鷲の眼イーグルアイ】や【渾身の一撃パワーショット】など操作系スキルを多く持っていて、戦いの中では補助役に回ることが多い。


 攻撃力のロイド様。

 魔力のミリアルディア様。

 知力のレイシア様。

 防御力のシェイル様。

 そして命中力の僕。


 少数精鋭、攻守揃ったバランスの良いパーティだ。


 お察しの通り、僕は農村出身でパーティ内では唯一の平民だ。とりわけ農家は平民の中でも下に見られる事が多く、いつも肩身の狭い思いをしている。


 普通なら今でも実家のリンゴ農家を手伝っているはずだったけど、まだ5歳だった頃の僕が、遊びでリンゴのヘタを小石で撃ち落としているのをお爺ちゃんが発見、命中力の才能があると発覚した。


 お金も無いのに無理して魔導士学園にまで入学させて貰って、あの頃は本当に頭が上がらない思いで、恩返しするには特訓するしかないと必死だった。


 2年前、努力の甲斐あって学園でトップの命中力を身につけて卒業した僕は、学園長によって選ばれし者たちだけが招集された「神童の集い」参加させてもら得ることになった。


 懐かしい。初めてパーティメンバーが集まった時は死ぬほど緊張したなぁ。なんたって僕以外、本物の貴族様なんだもん。

 粗相が無いように常に気を張って、雑用は出来るだけ率先して殆どをこなした。あ、過去形で言ってるけど、今と変わらないか。うん、変わらないね。


 Sランクモンスター、デーモンハンドの討伐を終え、1週間かけて帰還。

 ギルドへの報告、報酬の分配、反省会、今後のミーティング、細かい後始末を終えた頃には皆んなヘトヘトになってその場で解散となった訳だが、僕は皆様が帰った後に、神童の集い専用の事務室を掃除するのが、いつものルーティンだった。


「皆様には、気持ちよく冒険に出て貰いたいからね。隅々まで掃除しないと」


 その時、なんの合図もなく勢いよく扉が開いた。

 こんな情緒のない登場の仕方をする人を、僕は一人しか知らない。


「おう、やってるかクズやろう」


「は、はい。ロイド様。もう少しで終わるところです」


 ロイド様は学園で出会った頃から横柄な方で、自分の言うことを聞かない人には、特に強く当たる人だった。

 他の人の目がない時、僕はよく殴られる。

 理由なんてない。それが挨拶みたいなものだった。

 とにかく謝らないと帰らせて貰えないのだけれど、謝り方が下手だと靴で頭を踏まれる。

 他の3人が帰った後に報酬を横取りされるのが日課で、最近では9割くらい取られてる。

 反論する気にもならない。もしもそれで怒らせたら何をされるか分からない。

 ロイド様と二人きりになる時は、いつも胃がキリキリして、何事もなく時間が過ぎるのを祈っていた。


「もう掃除しなくて良いぞ」


「え?」


「今まで悪かったな。雑用ばっかし押し付けて。もう2度とお前に酷いことは頼まねぇから安心しろ」


 一瞬、だれに言ってるのか分からなかったが、ロイド様はにこやかな顔をしてこちらを見ていた。

 自分の耳を疑ったけど、まさか、ロイド様からそんな言葉が聞けるなんて。

 努力した姿勢がようやく認められたんだ。僕はいつだって努力で夢を叶えてきた。平民と馬鹿にされても、きっと出来ないことはないんだと奮い立たせてきた。きっとお爺ちゃんも今の僕を見て誇りに思ってくれてるはずだ。


「テメェはパーティから除名するからよ」


「……え」


 和かだったロイド様の顔が急に真顔になる。

 石でも入ってるのかと思うほど、胃がキリキリと重くなる。


「じょじょじょ、除名って……ご、御冗談です……よね……?」


「冗談? テメェは自分の行いを振り返っても、同じことが言えるのか!? あぁ!?」


 ロイド様の大きな声に身がすくむ。

 パニックにならないよう冷静に過去を振り返る。

 自分に非があるなら早く謝ろう、そう思った。

 でも、どれだけ深く考えても、追い出される程の粗相をした覚えが見つからない。


 返答に遅れたため、ロイド様に思いっきり殴られた。


「すみません! 申し訳ございません!」


 怒りを増幅させてはいけない。僕は床に頭をつけ、全身全霊で謝罪の意を表した。


「ふざけるなよ。マジで分かんねぇのかテメェ。テメェが今年に入って倒した魔物の数は幾つだ? 答えてみろ!」


「ゼ、ゼロです」


 素直に答えたつもりだったが、ロイド様に頭を踏みつけられた。


 たしかに僕は最近になって魔物を倒せなくなっていた。

 最初は戦う魔物も弱く、力の無い僕でも急所を狙えばそれなりに魔物と戦えた。

 でも、それぞれの天才が集まるこのパーティは、駆け出しから2年もしないうちにSランク任務をこなすようになった。

 僕の命中力と弓の扱いは確かに成長を遂げたが、もうそれだけではSランクモンスターの硬い防御力を貫くことが出来なくなっていた。


「テメェの無能さには最初からうんざりしてたんだ。ミリィたちがどうしてもって言うから入れてやったが、やっぱり俺の目に狂いは無かったな。お前は無能中の無能。命中力なんていくら高くたって、Sランクモンスターには何の意味もなさなかった!」


 それでも、僕はパーティの危機を回避するために、矢を放ち続けた。

 ロイド様、貴方を背後から襲おうとしていた魔物の注意を逸らし、命を救った事だって何回もあった。

 1キロ先に矢を放って誘導し、魔物の集団を分散させたりもした。

 それは大胆不敵なロイド様からすれば、僕の援護なんてチマチマしたものなんだろうけど。

 それでも、僕は僕なりにみんなに貢献してるつもりだった。


「この話はミリィ達も了承済みだ。」


「え……」


「お前よりも優秀な遠距離攻撃を持った冒険者は五万といる。それもテメェみてぇな汚ねぇ農民なんかじゃなく、血筋の正しい貴族の中にな。みんな、心の中ではお前を足手纏いだと思ってたってことだ」


 ロイド様はニンマリとした笑顔で僕の心を舐める。

 そんな……。みんなも……同じ意見なのか。

 僕のことを役立たずたと……。

 あんなに仲良く話して下さってたのに……全部、嘘だったのか。影では僕のこと、平民だって馬鹿にして。


 僕はあまり自分から功績をひけらかす様な事はしない。誰かを助けても、それを当然のことだと思って言わなかった。

 みんなが気付いてないだけで、僕は役に立っていたはずだ。

 それとも、僕の援護は本当に必要なかったのか? 

 僕が守らなくても、皆んな勝手に対処してたって、そういうことなのか?


「言っておくが、ミリィとレイシアは俺に惚れてるんだ。お前にばかり笑顔になるからって勘違いすんじゃねぇぞ。アイツらには2度と近づくな」


 なんで急にそんな話を……と思ったけど、きっと僕の解雇に賛成した2人に、逆恨みしないよう釘を刺したんだろう。

 それにしても、あのお二人がロイド様のことを好きだったなんて知らなかったな。

 多少は横暴でも、やっぱりロイド様は男らしいし、女性にはモテるんだろう。


「も、申し訳ございません。僕が役立たずなら、これから役に立てるように頑張りますから! 死に物狂いで働きますから! どうか除名だけは止めてください! お父さんもお母さんも死んじゃって、お爺ちゃんもお婆ちゃんももう歳で……僕の仕送りだけが頼りなんです!」


 ロイド様は頭を下げて謝る僕の髪を掴んで、上に持ち上げた。


「せめてもの餞別に教えといてやるよ。ギルドを介して王宮にはテメェの最悪な評価を送りつけておいた。んでもって今朝、テメェの能力偽装罪が確定したんだ。銀行の資産は没収。財産は全て押収される」


 能力偽装? 何を言ってるのか、理解するのに頭が追いつかなかった。


「さっさと出ていけ負け犬! せいぜい負け組人生を堪能してろよ! 骨の髄までな! はっはっはっはっ!」


 もうこれで会うこともないと言わんばかりに、ロイド様はいつもより強く殴り、いつもより多く僕を蹴り飛ばした。

 僕の防具をへし曲げ、銀の弓を折り捨てる。

 事務室の外に放り投げ出されると、ロイド様は高笑いして扉を閉めた。

 銀行の資産没収……。財産押収……。


 ロイド様のいつもの悪い冗談。きっとそうに決まってる。そう信じたいという心とは裏腹に、体は銀行ギルドに駆け走っていた。

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