第4話

背中が痛くなって目が覚めた。視線には見慣れない天井が映っている。ここはどこだっけ?と少し考えて、そうだ、ビルの中にいるんだ、と自分の居場所を再認識する。

「起きた?」と桐原が話しかけてきた。

僕はソファから起き上がり、寝癖を手で押さえながらがコクリと頷く。

「よく眠れた?と言っても、硬いソファだからね。私は腰が痛くて早く家に帰りたいよ」

そう言いながら、パソコンに向かって作業をしている。

僕はどうすれば良いのかわからず、ソファの上に座って待っている。目の前にはメロンパンが置いてあった。

「朝ごはん。今日から仕事なんだからご飯食べて英気を養わないと」

桐原はタバコを吸いながらパソコンと睨めっこをし続けている。

「この後二時間後から、二時間、貴方を買いたいと言っている客がいるからそこに向かうよ。そうだね、服とかは向かいのソファにあるものを着てちょうだい。本当は風呂にも入れたいんだけど、そう言うわけにはいかないから、お客さんの家で入れてもらいな。そう言うところの了承も得ているよ」

僕は、机に置いてあるメロンパンを少しずつ食べながら、目の前の段ボール箱を見つめる。

「貴方が好きかどうかわからないけれどさ、こう言うのをお客さんは望んでいるんだよ。だからさ、苦手だと思ってもちゃんと着て頂戴」

僕はメロンパンを口元からポロポロとこぼしながらも最後まで食べ終わり、僕は着替えることにした。

僕は自分が来ているTシャツを脱ぎ、裸体が露呈する。

「あんた、本当に痩せているね。少し醜いところがあるから、これからはちゃんと食べないと」

桐原は老婆心の如く話しかけてくる。

僕は段ボールから服を取り出し、見つめる。僕があまり着ないような少し煌びやかな服装だ。

「そういやさ、貴方、射精した事はあるの?」

「しゃせい、ですか?」

「そう、射精。14歳にもなって精通をしていないって事はないだろうけど」

「どんなものなんですか?」

僕は少しだけ不安になる。

「あんた、精通してないのね」

そういうと、ため息をついた。

「お客に聞いてみる。もし、お客が精通させたいって言ったらそのままだし、そうでなければ、私が今からサクッと抜くわ。仕方ないけどね」

僕は桐原が何を言っているのかさっぱりわからなかった。僕は、いつも着ない服装に身を包み、ソファに縮こまって座っているしかできなかった。

幾分か待った後、桐原は少し嬉しそうに話しかけてきた。

「お客が貴方の精通に興味があるらしいわ。チップも多く弾ませてくれるらしいから私も貴方も万々歳。そうでしょ?」

桐原は嬉しそうに話をするが僕にとってはなんの話をしているのかわからないから固まっておくしかできない。

「貴方、そんな態度じゃ『太客』はつかないわよ。この仕事は笑顔とサービス精神が必要なの。貴方の屈託のない笑顔や、性への探究心、そのようなものがお客さんに『ウケる』のよ。そんな辛気臭い顔をし続けるなら、私は貴方のバックアップはしないわよ」

桐原は今の僕にとって生命線だ。彼女が僕の前からいなくなったらお金稼ぎはできない。彼女の言うことを聞かなきゃ。そう思って微笑みかける。

「すごい歪な笑顔よ。まぁ、でも、仕方ないかしら。お願いだから、お客さんの機嫌を損ねるような事はしないで」

そう言って桐原は立ち上がり、僕のところに来た。

「光、今からが初仕事よ。怖いかもしれないし、嫌なこともあるかもしれないけれど、貴方が選んだことなの。生きているのは今の私たちだけ。未来も過去も関係ない。今貴方ができる、最高のパフォーマンスをするのよ。それが貴方、娼夫のできることなのだから」

そう言って、僕の手を引いてビルを出る。

「タクシーが来ているわ。お客さんのところに向かうわよ」

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