「ねこと犬、どっち派?」

「ワシはイヌ派じゃ!」

 突然響いた甲高い声に、ぎょっとして振り向くと、琴音がいつもの“お人形遊び”を始めていた。


「ネコもカワイイが、いっしょに遊んでくれないからのぉ!!」


 少し前まで、やたらと吾輩に構ってきていた彼女。何か母君から言われたのだろう。ここ最近は、我輩の後を付け回さなくなった。

 しかし、昼寝に勤しむ我輩の側で、これ見よがしに“お人形遊び”とやらを繰り広げる。

 今日もぽかぽかと暖かい絶好の昼寝日和だというのに、うるさくって敵わない。


「いらっしゃーい!奥さん、奥さん!

 今日は良いサンマが入ったんですよ!!」

 魚の名前を出せば、ネコは喜ぶと思っているらしく、やたらと魚屋さんが登場する。しかし、

「ピチピチに活きがいいですよ!

 見てください!!このクチバシ!!」

「あら、ホントね。

 ペロッ…これは?!これは目黒のサンマですか?」

「いいえ、和歌山です。

 三時間ぐっすり寝て、とても元気なサンマさんですよー!」

 …彼女の“お人形遊び”は、我輩にはよく分からない。


 耳を伏せて、顔を背けると、母君の声がした。

「おやつよー」


 カリカリをお皿に注ぐ音がする。

「ハァーイ!!」

 我輩がパッと立ち上がったのを見て、琴音はニィッと小さな真っ白の歯をむき出しにした。

「センセイもおやつ?」

 みゃおんと、ひと声鳴いてやると、嬉しそうにぴょこぴょこ付いてくる。


 そよ風が身体を優しく撫でて行った。

 やっぱり今日は昼寝日和だ。


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