「猫と戦争」
お母さんのおかげで、今日もふかふかのお布団。
ぐっと顔を押しつけると、お日様の温かい匂いが胸いっぱいに広がり、自然と今日一日のことを思い出す。
朝から肥溜めに落ちそうになった弟の寝ぼけ顔、お昼に交換したヨウコちゃん家のお弁当のおかず、先生が目を離すとすぐ悪ふざけする男の子、苦笑いしながら優しく叱る先生。ひょろっと背の高い先生は、私達と話すとき、ぐっと背中を曲げて、目線を合わせてくれる。そうすると、眼鏡の奥の優しい目がよく見えて、私は嬉しかった。
よく響く少し低い声を聴くと、背筋がピィーンと伸びて…。
「…ちゃん!ねぇちゃん!」
弟に揺り起こされ、ぼんやり目を開けると、遠くでサイレンが聴こえる。
冷水を浴びたように目が覚めて、ガバッと布団から飛び出すと、ちょうどお母さん達が駆けつけたところだった。
黙って目配せした二人に引きずられるように防空壕へと走る。
そして、4人が駆け込んだ瞬間、爆発の衝撃が防空壕を揺らした。
それを合図にしたように、爆撃の雨が始まり、防空壕は石の雨のような音や破裂音、爆発音に満たされる。ぎゅうっと私たちを覆い隠すように抱き締めるお母さんとお父さんの下で、弟と私は、ただ耳をふさいで、通り過ぎるのを待つことしか出来なかった。
翌朝、思ったほどではないにしろ、町はボロボロになっていた。
見知った場所の焼け焦げた様子に呆然としながらも、弟ともに登校する。
級友達も衝撃だったのだろう。教室は妙な熱気に包まれていた。
そんな中、いつもは早めに現れる担任の先生がなかなか来ない。
もうチャイムも鳴ろうかというときに、教頭先生と校長先生が現れて、しんみりと言った。
「…先生は昨夜お亡くなりになられました」
目の奥がチカチカして、耳の奥がキィーンとなった。みんなが何か言っている気がするけれど、何も聴こえない。窓は開いているのに、風はちっとも吹かなくて、私の口の中もパサパサする気がする。
空は今日も綺麗な青空だ。
教頭先生と校長先生の姿がだんだんボヤけてきた。頬に冷たい感触がして、それを触ろうとすると、聞き覚えのある低い声が響いた。
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目を開けると、黒く縁取られたセンセイの瞳が私の顔を覗き込んでいた。
何だか嫌な夢を見た気がする。
寝ぼけ頭でぼんやりしていると、センセイは私の頬に鼻を押しつけた。
ふと顔をあげると、外は真っ暗。しまった!昼寝し過ぎた!!
「ごめんね!すぐご飯するからねー」
そう言って立ち上がると、センセイは満足げに喉を鳴らした。
あ、そうだ。お布団も干しっぱなしだった!!
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