「猫の○○はご主人さまを探すにゃー」
彼の一番古い記憶は、真っ暗な藪の中。
人間に捨てられたのでしょうか。それとも、親猫が何処かに行ってしまったのでしょうか。
とにかく、彼は寂しくて、声が嗄れるほど、鳴いていました…。
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灰色の雲の下。
しとしとと続く雨の中。
その公園には仔猫の声が響いていました。
最初に気づいたのは、近所のご婦人。買い物の帰り道だったのか、手押し車には野菜が入っているのが見えます。
はじめ、気のせいかと首を傾げていたものの、すぐに垣根の中だと気づき、覗き込みました。
「あらあら」
白い毛並みがドロドロになった仔猫を見て、思わず買ってきたばかりの煮干しを取り出します。
「シロちゃーん、おいでー」
「あー!ネコちゃんだー!」
甲高い無邪気な声に彼女が振り向くと、そこには、お母さんに連れられた就学前ぐらいの女の子。可愛いポシェットを揺らしながら、ぴゅーっと走ってきます。
彼女はしゃがんで、じぃぃっと仔猫を見つめていましたが、突然ハッと思い出したように声をあげます。
「野良猫には、ごはんあげちゃダメなんだよ…!」
「…あ、そうねぇ…。ゴメンね」
真っ直ぐな瞳で言われて、思わず謝るおばあさん。女の子のお母さんは、後ろで申し訳なさそうに、ペコリペコリ…。
「おなかぺこぺこみたいだったから、ついねぇ…」
「……」
女の子もホントは仔猫にエサをあげたかったようですが、
「……お買い物に…行かないとっ!」
そう言って、女の子は後ろ髪をひかれる様子ながらも、仔猫から離れていきました。
女の子の言葉に、おばあさんも買い物袋の中身を思い出して、立ち去ってしまった。
再び、仔猫は独りぼっち…。
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だんだん雨脚が強くなってきました…。
しかし、この公園には雨宿り出来る遊具がありません。雨宿りが出来そうなベンチや東屋は、煙草の吸殻でいっぱいでした。
だんだん、垣根では雨を凌げなくなってきました。やむを得ず、仔猫は恐る恐る公園から足を踏み出します。
公園の周りは住宅街。
しかし、仔猫にとっては高い塀ばかりで、雨宿りの出来そうな場所なんて見当たりません。
とぼとぼ歩く仔猫のことなんて構わずに、、雨脚はどんどん増していきます。あっという間に、仔猫は濡鼠のようになってしまいました。
大雨の中、仔猫は雫を落とすのも諦めて、ポツリポツリと歩いていきます。びしょびしょに濡れたまま…。
そこに、上から嗄れた鳴き声が聴こえました。カラスです。
びっくりした仔猫は、逃げようとするも、ちょうど自動車まで通りかかって…。
「あー!!さっきのネコちゃんだー!!」
聴き覚えのある甲高い声が響きました。
そこは、ちょうどあの女の子の家の前でした。
仔猫はブルっと身体を揺すると、毛づくろいをしてから、彼女に走り寄ります。そして、小さくひと声鳴きました。可愛いしっぽをぴぃーんと立てて…。
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「おはよー!
今日も変わらず、イケメンだね、センセイ!
目の周りのメガネ模様が可愛いよぉー」
愛猫を抱き上げると、彼女は少し首を傾げます。
「あれ?ちょっと太った?」
無愛想な彼を見て、クスッと微笑むと、キュウっと抱きしめました。
喉を鳴らす声が部屋に低く響きます。
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