「チナチナマジック~帰り道は気をつけて~」

「さぁーて!今日も頑張りますか」

 両手を合わせたテツは、ニンマリと微笑んだ。


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 朝の会。

 ざわざわと子ども達がお喋りする中、先生はスムーズに出席をとっていく。

「三木川くん!……三木川哲之くん?

 あれ?今日はテツくんお休み?」


「うわあああぁぁあああ!!!」

 何やらすごい勢いで走って来るか否や、乱暴にバーンっと扉を開けて、にっこりポーズを決めた。

「セーフ?」


「アウトです」

 冷たく微笑んだ先生に、ぶーぶー不満をたれながら、席へ向かうテツくん。

 ふと目が合うと、ちょっと微笑んで小さく手を振った。

 あたしは恥ずかしくなって、目をそらしてしまう。

 それをどう思ったか、分からないけど、視線を戻したときにはもう席に座っていた。

 ブロンドのストレートを頭のとっぺんでキュッとくくったポニーテールが、朝の光を通して、すごく綺麗に見える。

 あれで、男の子なんだから、ズルいよなぁ…。


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「千田奈乃さーん♪帰りーましょ♪」

 後ろから歌うように声をかけられて、飛び上がる。

 振り向くと、笑顔のテツくん。満面の笑みが凄く怖い…。

 朝、目をそらしたのが何となく気まずく思えて、今日はずっとテツくんを避けて過ごしていたのだ。この笑顔は、きっと怒っているに違いない…。

「あのー…あたし、今日は用事があるので…」

「あーら?私も今日は急いで帰るから、お揃いねー」

 にぃーっと口裂け女顔負けの笑顔を浮かべると、パッと手を握られてしまった。

 ……男の子と手を繋いでしまった!

「え?何?真っ赤になってんの?大丈夫?」

 固まったあたしを心配そうに覗き込むテツくんは何だかいい匂いがした。

「…もう五年生だから…友だちと手を繋ぐのは、ちょっと恥ずかしい…」

 と言いつつも、ずっと繋いでいたい気もして、語尾が小さくなる。

「いーじゃん、いーじゃん!

 私はカナといっつも手繋いでるよ!」

 カナちゃんはテツくんの双子の妹だ。運動神経抜群で、バスケットボールクラブに入っている。

 スラッとしていて、カッコいいから、実は女の子の中にも彼女のことが好きな人がいるらしいという噂を聴いたことがある。

 少しテツくんより背が高いから、二人が並ぶと本当に素敵な美男美女カップルって感じがする。性別逆転してるけど…。

「あー!さては、ナノちゃんもカナのファンなの?

 双子なのに、いつもカナばっかモテモテなんだよなー」

「ふふ、テツくんも人気者だよ」

 本当に、彼は人気者なのだ。半年前に転校してきたばかりなのに、もうクラスの中心にいる。男の子なのに、女の子の姿をしているという異質な存在にもかかわらず…。

「ふふん♪まぁーね♪

 美に関して、努力はしてますから?ほほほ」

 でも、みんなを引きつけてるのは、彼の意志の強さなんだろうと思う。

 周りの意見を気にしないのではなくて、受け入れて、その上で自分の意志も主張する。

 彼が転校してきたとき、クラスは大騒ぎだった。凄く可愛い女の子が来たと思ったら、男の子だったのだから。

 当然、『気持ち悪い』と言う人もいた。でも、テツくんはその人たちと敢えて、話をしようとした。

『いろんな意見を取り入れたら、更に美貌が磨かれるから』って言って…。結局、学校ではスカートとか女の子っぽい服は着ないってことでお互い納得したみたい。

 でも…。

「お?俺の美脚に見惚れてるのかい?お嬢ちゃん」

 パンツスタイルでも、テツくんは美人さんなんだよなぁ…。

 顔が火照りそうなのを気づかれないように、ノリノリでウィンクしてきたテツくんから、顔をそむけた。

 彼といると、一体何にドキドキしてるのかよく分からない。


******************************


「じゃあ、また明日ね」

 曲がり角で、テツくんと分かれかけていたとき、ぴゅーっと向かいから自転車が来た。

「おかえりー」

「あ、カナ!今からクラブ?」

 うおおお…!カナちゃんだ!爽やかー!

 まさかここで美男美女カップルが揃うとは…!!

 と悶々していると、彼女はまだ繋いだままだったあたしたちの手をチラッと見て、ニヤッと笑った。

「あら、デート?」

「そうだよ!いーでしょ」

 ひぃーっ、あたしなんかが恐れ多い!

「って、テツのクラスのチダさんじゃん!」

「え、あたしのこと知ってるの?」

「もちもち、隣のクラスだし…。

 …てか、チダさんの下の名前って、ナノだよね?」

「うん、そうだよ」

「あー…そういうこと…」

 キョトンとしているあたしを横目に、クスクス笑って、テツくんを小突いた。

「ぷっ…チナチナって…イニシャル的なヤツね」

「ちょっと!カナ!待って待って!」

 慌て始めるテツくん。何のことやら分からず、あたしはカナちゃんの口を塞ぐ彼に尋ねた。

「チナチナは、えっとぉ…そのぉ…。ぁ!!

 チナチナマージック!

 私のことが好きになぁーれ☆」

 テンパり過ぎたのか、謎の魔法をかけられた。しかも、ポーズもバッチリ決まってる。

 啞然としていると、テツくんは珍しく真っ赤になって、更に取り乱した。

「なんちゃって!!急にゴメンね!!また明日ー!」

 一息に言うと、そのまま身を翻して、一目散に駆けていった。


「ぷっ…あっはっはっはぁ…

 テツがテンパるところ、久々に見たよー!

 ナノちゃん、やるねー!これからは私とも仲良くしてね」

 そういうと、カナちゃんはあたしの頬に触った。

「何でも相談のるからね?」

 優しく微笑む彼女の手は、ひんやりしていて、火照った頬が心地よかった。

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