第24話 盗賊王を討て! その1

 ――決闘終了後、俺の店を貸り切って祝勝会が行われた。


 エディスとフローラも参加している、というより主催者がエディスで費用もエディスが出すことになっている。

 彼女は勝敗関係なく宴会を開くつもりだったのだ。


 さらにジュースの材料として新鮮な果実を大量に持ってきてくれた。

 どうやら、フローラのスキルで生み出したものらしい。


「料理のレベルは中の上ってとこだけど、ラシェリアが給仕してくれるってだけで、美味しさ倍増よね♪」


 エディスは機嫌良さげにそう言った。

 貴族令嬢だからかエディスだからなのか、すごい感性しているな……。


「それはよかったです♪」


 レイチェルは自然な笑顔で応える。


 だんだんわかってきたのだが、彼女はどうも悪口に鈍感らしい。

 だから悪口を無自覚に言うし、言われてもあまり怒らない。

 今のに至っては気付いてすらいないだろう。


「やったぁ~♪ 貴族様の基準で中の上ってかなり良くない?」


 アリサはアリサで無邪気に喜ぶ。

 確かにエディスは貴族令嬢だから美味いもの食べてきたんだろうなァ。


「うんめ~うんめ~」


 子供たちはガツガツ料理に食らいつく。

 その姿に幼い頃の自分を思い出す。


「それじゃ、残りの薬は明日作るわね」


 エディスはリネットにそう言った。

 だが――、


「そのお話ですが……残りはいりません」


「はァ?」


 エディスでなくとも驚くだろう。

 リネットは薬を節約しすぎて倒れたのだから。


「残りの薬は不要です。その代わり、お二人に受けていただきたい依頼があります」


「……何よ? 依頼って冒険? アタシ、野宿とかしたくないんだけど?」


「おそらく野宿はしなくても済む依頼かと」


「じゃ、言ってみなさい」


「現在、ゴドヴィア共和国とエクレシア帝国との間で戦争が行われており、周辺諸国の経済に悪影響が出ております。当然、この国も」


 こ、この流れは――。


「まさかアタシたちに戦争をなんとかしろっていうの?」


「いえ、そこまで大層な内容ではありません」


 ちょっと安心。


「じゃあ、何よ?」


「この戦争のどさくさに紛れて良からぬことを企む輩がいます」


「良からぬこと?」


「はい。フリートウッド州の領主一家が殺害されました」


 ――え?


「移動中を盗賊に襲われでもしたの?」


「盗賊に襲われたというのはその通りですが、移動中ではありません。昼間、屋敷に堂々と攻め込んできたのです」


「ハァ? それどんだけの戦力よ!?」


 当然、貴族の屋敷はかなり警備をしている。

 つまり――、


「はい。盗賊にしてはかなりの戦力です。盗賊団を率いているのはギルバート・ウェインという男で統率力、本人の戦闘力、共にかなりのものです」


「えーっと、つまりそいつらを倒してほしいわけ?」


「察しが良くて助かります。フリートウッド州を通るタリス川は重要な物資運搬ルートなのですが、この盗賊団は勝手に関税を取っているのです」


 この国において、各州の統治は基本的に領主に任されている。

 だが川は“王の道”とされ、税を取ることは禁止されているだ。


「王立騎士団は――いえ、野暮なことを訊くのはやめるわ」


 よくわかってるじゃないか……。


「受けていただけないでしょうか? 残りの薬を受け取る権利を放棄しますし、加えて依頼相応の報酬もお支払いします」


「っていうか……そもそもアンタは薬なくて大丈夫なの?」


 そうだよ!

 せっかくの薬を手放すなんて、おまえはそんな殊勝なやつだったか?


「えー、おおごとにさせてしまって恐縮なのですが……別に薬は買えます」


「「は?」」


 俺とエディスの声が綺麗にハモった。


「買えなくはないのですが、高くなったのも事実です。ですので、減らしても大丈夫か確かめてみたくて、つい……ウフフフフフ、ウフフフフフ」


「おいおい……ソフィアの手を煩わせたんだぞ!?」


 と、リネットを睨みつけるが、肝心のソフィアは――、


「まぁ、お姉ちゃんは知ってたけど♪」


「俺にはわかる、最初から寄付の宣伝が目的だったんだろ?」


「そうだよ~♡」


「まぁ、薬の権利を放棄されても作るのはアタシじゃなくてフローラだからね~」


 地味に酷いこと言ってるな……。

 フローラもちょっとは文句を言ったらどうなんだ?


「…………」


 リネットは黙り込んでしまった。

 そうだな……薬の権利は大した交渉材料にならない……。


「あ、重要なことを忘れていました。報酬ですが10億ダリルです」


「10億ダリル!? そんな依頼見たことないぞ……」


 エディスは冷静に、


「だけど、依頼の重大さに対してはかなり安いわ」


「た、確かにそうだな……」


 この依頼は小規模な戦争に等しい。

 絶対的には大金であっても戦争資金としては少なすぎるのだ。


「それで、その依頼主は誰よ?」


「国王陛下です」


 それを聞いたエディスはニヤリとして、


「ふ~ん、陛下に恩を売っておくのは悪くないかもネ」


「それでは、受けていただけるのでしょうか?」


「いいわよ」


 おいおい……。


「ではエヴァンさん、新人冒険者たちのサポートをお願いします」


「……は? どうして俺が関係あるんだ?」


「新人だけのパーティとかダメに決まってるじゃないですか?」


 リネットはさも当然のごとく言うのだ。

 その理屈自体は間違っていないが――、


「他のヤツでいいんじゃないか?」


「それではエディスさんたちの足手まといになります」


 それは実力の不足によるものか、それともエディスのワガママに付いていけないという意味か?

 後者なら俺も無理だ……。


「う~ん、アンタの分前は2億ダリルでいい?」


「すくねーな!? 元Sランク冒険者で仮にもおまえに決闘で勝ったんだぞ?」


 というか、エディスの中では俺は参加する方向で進んでいるらしい。

 あと、俺は分前にはうるさいんだぞ?


「アタシたちの方が家柄がいいし?」


「家柄で分前を決められてたまるか!」


 エディスはニヤニヤしながら、


「じゃあ、決闘するゥ?」


 と、気軽に挑発してくる。


「だから、そうやってすぐ決闘に持ち込もうとするのやめろッ!」


 とかなんとか言い合っていると……。


「あの! エヴァンさんが行くなら私も行きます!」


「ワタクシもお供いたします!」


 ララとレイチェルも参加を表明した。


「ハァ? これ以上増えたら分前も武勲も減ってしまうじゃない?」


 エディスはすぐに抗議した。


「分前や武勲はともかく、店はどうするんだ? アリサを1人にする気か?」


「「うぐ……」」


 二人は言葉に詰まったらしい。


「俺の代わりに行くというなら認めるが、行くか?」


「「行きませんっ!」」


「店を閉めればいいじゃないですか? 依頼の報酬に比べたら誤差みたいなもんですよ、ウフフフフフ」


「せっかく俺がいなくても回るようにしたんだ! ぜってェ開けるッ!!」


 かくして、エディス、フローラ、そして俺の3人でギルバート・ウェインとかいう盗賊討伐に向かうこととなった。

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